司法試験合格 重度の視覚障害女性「弱い人救う弁護士に」
毎日新聞2018年12月2日 21時46分(最終更新 12月3日 03時26分
https://mainichi.jp/articles/20181203/k00/00m/040/064000c

法科大学院に進学、2度目挑戦で夢かなう 3日から司法修習
 重度の視覚障害がある東京都の板原愛さん(27)が、今年度の司法試験に合格した。重い視覚障害者の女性が合格するのは極めて珍しく、板原さんは3日から始まる司法修習を前に「社会で弱い立場にいる人たちの力になれる弁護士になりたい」と話している。

 板原さんは大阪府岸和田市出身。生まれつき角膜が濁る病気があり、視力は0.02〜0.03、視野も30度ほどの狭さだった。
 地元の小学校に通っていたが、両親の勧めで東京都の筑波大付属盲学校(現・同大付属視覚特別支援学校)中学部に進学。家族と離ればなれの寮生活は「ホームシックを感じたことはなかった」。髪の毛を突然染めたり、クラスメートとケンカをしたり「やんちゃな子ども」だったという。
 弁護士を志したのは中学2年の頃。読書感想文の題材で憲法の本に触れ、法律に関心を持った。弁護士が登場するテレビドラマなどを通じて憧れを抱くようになり「絶対弁護士さんになる」と決意を固めていった。
 同校高等部卒業後、1年間の浪人生活を経て青山学院大法学部へ。大学卒業後に早稲田大法科大学院に進学し、2度目の挑戦となった今年度の司法試験で見事合格を果たした。
 日常生活で点字のほか、パソコンやスマートフォンの文字拡大・音声読み上げ機能が欠かせない板原さん。法科大学院では、講義の際に教員に板書内容を読み上げてもらうよう頼んだ。学内スタッフらの手助けで資料もテキストデータに変換してもらい、パソコンの音声読み上げ機能で内容を聞きながら学習した。また、司法試験では「特別措置」を申請し、試験時間の延長や解答のパソコン使用などの配慮を受けた。
 さまざまなサポートを得てつかんだ法曹への道。同じ障害のある父親(70)は「ようやく一人前になれたな」と喜ぶ。板原さんも周囲の祝福がうれしかったが、同時に「合格だけを考えてきたけど、この先、何を目指せばいいのだろう」と不安に襲われもした。
 そんな時に頭に浮かんだのが、同じ障害のある同級生らの姿だった。能力があるのに必要な配慮を受けられず、働く機会を得られなかったり、周囲となじめずに心身の調子を崩したりする姿を見てきたからだ。
 「友人が苦しい思いをしているのは、見過ごせない。視覚障害のある弁護士はまだ少なく、自分だからこそできることがあるのではないか」。どの専門分野に進むかまでは決めていないが、社会で弱い立場に置かれている人の力になる活動に携わるつもりだ。司法修習を控え「依頼者からも、職場でも『板原がいて良かった』と思われる存在になりたい」と力を込める。
 日本弁護士連合会は障害のある弁護士の数などについて「把握していない」とするが、視覚障害者として日本で初の弁護士となった野村茂樹弁護士(東京弁護士会)は「重度の視覚障害者の女性が合格するのは初めてではないか。彼女の姿を見て、後に続く人たちが増えると思う」と期待している。【蒔田備憲】