「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家野崎幸助さんが今年5月24日、同市の自宅で急性覚醒剤中毒で死亡しているのが発見された。77歳だった。
自宅には当時、妻と家政婦がいた。謎が解けぬまま7カ月が経過。迷宮入りが取り沙汰される中、新たな焦点が浮かび上がってきている。
田辺市の閑静な住宅街にそびえる豪邸は主を失い、ひっそりと静まり返っている。毎日、家の前を通るという近隣住民の男性は「出入りしてる人を全く見なくなった」と話し、
「あそこの家と関わってる者は近所ではおらん。取材しても無駄やで」と多くを語らなかった。野崎さんが奇怪な死を遂げてから約7カ月。玄関の屋根に広がっていた巨大なクモの巣が、時間の経過を物語っていた。

死亡した時、現場にいたのは結婚して3カ月しかたっていない55歳下の若妻と、30年来の付き合いがある家政婦だけ。外部から侵入した形跡はなかった。
和歌山県警は容疑者不詳のまま殺人事件として自宅や、野崎さんが営んでいた酒類販売会社、東京にある妻や家政婦の家を家宅捜査。
2000本のビールの空き瓶など押収品は膨大で捜査関係者は「全て鑑定が終わるまで1年以上かかると言われている」と明かした。

これまで焦点が当たっていたのは覚醒剤の入手経路。だが、野崎さんが亡くなる3週間前に急死した愛犬イブの死骸まで掘り返したものの、覚醒剤成分が検出されることはなかった。
田辺署にある県警捜査本部も、今は当初の熱気はない。

事件と事故の両面で捜査が続く中、新たな焦点が浮かんできた。いつのまにか若妻が野崎さんの会社の代表取締役として登記されていたことが分かったのだ。

野崎さんの会社の従業員によると、登記されたのは発生から5カ月がたってから。日付は「10月26日」になっていた。
実は若妻が社長に就任していたのは7月。この従業員はその事実を10月になってから知った。
「彼女の姿を見ていない。会社は動いているのに」と戸惑いを見せた。一部では、登記が書き換わる前の9月に同社の銀行口座から「報酬」の名目で妻側に約1億円が送金されていたと報じられた。

捜査線上に浮かぶ人脈の出入金記録を金融機関に照合する捜査は一般的に行われている。今回の事件でも捜査関係者は「金の流れに関心を寄せているのは間違いない」と明かした。

野崎さんの知人は「発生直後から捜査が進んでるように見えない。このまま迷宮入りするんちゃうか」と閉塞感を漂わせる。
ただ、巣に獲物がかかったクモのように、じっとしていた何かが動き始めたのも確か。平成のうちに解決する可能性はまだ残っている。

《田辺市内に墓 “遺言状”の真偽は?》知人によると、野崎さんは田辺湾を見下ろす高台にある市内の霊園に眠ることになっている。
「墓地は用意しているがお墓はこれから建つ予定」という。30億円とも言われる遺産を巡っては、
親族の一人が「家庭裁判所から“遺言状”が本物かどうか確かめる検認に立ち会ってほしいという案内が届いた」と説明。
一部週刊誌によると“遺言状”は「個人の全財産を田辺市に寄付する」と書かれた文書で日付は2013年になっている。
スポニチ本紙は遺言状の真贋(しんがん)や現在の心境を聞くため妻に代理人事務所を通じて質問状を送ったが「取材には一切対応しておりません」と応じなかった。

【野崎さんの死を巡る動き】

 ▼今年2月 3度目の結婚

 ▼5月6日 溺愛していた愛犬イブが急死

 ▼同24日 自宅2階寝室で死亡しているのが見つかる

 ▼同26、29日 県警が家宅捜査

 ▼6月6日 死因が急性覚醒剤中毒と判明

 ▼同7日 県警がイブの死因を調べるため自宅の庭に埋葬された死体を掘り返す

 ▼同15日 妻がフジテレビ番組に出演。野崎さんから「離婚する」と言われていたことなどを明かす

 ▼9月 野崎さんが経営していた会社の口座から1億円が妻側に流れたと週刊誌報道

 ▼10月26日 会社の登記簿で代表取締役の名義が妻に替わる

https://www.sponichi.co.jp/society/news/2018/12/18/kiji/20181217s00042000375000c.html
2018年12月18日 05:30