「レーダー照射、韓国軍の実力では自衛隊と戦えない」

田母神俊雄(元航空幕僚長)

 韓国艦艇から海上自衛隊のP1哨戒機に対し、火器管制レーダーの電波照射が行われた件で日本政府が、極めて危険な行為だとして韓国政府に抗議している。

 火器管制レーダーの電波照射はミサイル発射のために行われるもので、危険極まりないということのようだ。しかし、火器管制レーダーの電波照射とミサイル発射は常に一連のものとしてつながっているわけではない。また、火器管制レーダーの電波照射はミサイル発射のためだけに行われるわけではない。

 ミサイルの実発射よりは、ミサイルを発射するための訓練として火器管制レーダーの電波照射が行われる。すなわちレーダー操作訓練の一環として火器管制レーダーの電波発射が行われているのである。

 世界中の軍が日常的にレーダー操作訓練を実施しており、地対空ミサイル部隊や海に浮かぶ艦艇などでは火器管制レーダーの電波照射は日常的に行われている。そしてその電波は地対空ミサイル部隊や艦艇などの周辺にいる航空機などには届いてしまうことが多い。

 しかし、その際ミサイルが発射されないように二重、三重の安全装置がかけられており、一人のミスでミサイルが不時発射されてしまうようなことはない。

 戦争が行われている場合や情勢が緊迫している場合なら火器管制レーダーの電波照射はミサイル発射の前兆であり、危険であるが、平時においては火器管制レーダーの電波照射が行われることが、直ちに危険であるということはない。

 陸海空自の対空ミサイル部隊では日々の訓練で、自分の部隊の上空に接近する航空機は、万が一に備えその航空機が何者であるか識別するとともに、あらゆる航空機を疑似の射撃目標としてレーダー操作訓練を実施している。疑似目標には自衛隊機だけでなく米軍機も民間航空機も含まれている。

 これは多くの国で同様な訓練を実施していると思われる。民間航空機を目標として危険な訓練を実施していると騒ぐ人たちがいるかもしれないが、ミサイルが飛んでいくことはないので全く安全である。

 しかし、危険だから民間航空機を疑似目標として訓練することはやめろという指示が防衛省などから出てくる恐れがある。そうすると対空ミサイル部隊は訓練の機会を大幅に失うことになり部隊の弱体化につながっていく。そういうことにはならないようにしてもらいたい。決して危険な訓練ではないのだから。

 自衛隊は民間航空機や米軍機を含めレーダー操作訓練をしているだけである。同じ火器管制レーダーの電波照射でも戦闘機の場合は多少状況が違っている。戦闘機が空対空戦闘訓練を行う場合は、定められた訓練空域の中で、戦闘機同士で行われることが多いので、火器管制レーダーの電波照射は、模擬戦を戦う仲間の戦闘機に対して行われる。
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