子どもを抱っこひもなどで抱えながら自転車を運転し、転倒する事故が相次いでいる。消費者庁によると、2010年以降、全国で少なくとも56件発生し、横浜市では今年7月に死亡事故も起きた。子育て中の移動手段は限られ、親の中には「子どもの様子がよく見える」と“抱っこ運転”が安心との声もある。ただ、ハンドル操作の妨げになる抱っこ運転は道交法にも違反し、専門家は「子どもの命を守るためにも絶対にしないで」と呼び掛ける。

 福岡県の20代女性は今年夏、生後8カ月の長女を抱っこひもで抱え、後部座席に長男(3)を座らせて自転車を運転していた。自宅から1キロ先のショッピングセンターに向かう途中、寝ていた長女の頭が揺れてハンドルを取られ、何度も車体がふらついた。

 「抱っこ運転がこんなに難しいとは思わなかった。転べば子どもが命を落としかねない」。二度としない、と決めた。

 横浜市では7月、30代女性が次男(1)を抱っこひもで抱え、前部座席に長男(3)を乗せて自転車を運転中に転倒。次男は頭などを強く打って死亡し、女性は過失致死容疑で書類送検(不起訴処分)された。女性は「ハンドルが利かなくなった」と話したという。

 消費者庁によると、抱っこ運転での転倒事故は10年12月〜18年6月、調査対象になっている全国約20の医療機関から56件報告があり、うち10件は重傷事故だった。同庁は「実際はもっと多くの事故が起きている可能性がある」と指摘する。

 交通ルールを定める九州7県の公安委員会規則は抱っこ運転を認めておらず、道交法違反になる。前後の幼児用座席に乗せたり、おんぶしたりする「3人乗り」は可能だ。

 福岡県内で抱っこひもの使い方を教える松川直子さん(43)は「おんぶに比べて抱っこは密着度が低く、バランスが崩れて転倒しやすい。抱っこしながらの運転はやめて」と話す。

 日本自転車普及協会(東京)の谷田貝一男学芸員(67)も「ハンドル操作が難しい抱っこ運転をしないのはもちろんだが、子どもを乗せる場合は人通りの多い道を避けて事故を防ぐ工夫をしてほしい」と話した。

=2018/12/30付 西日本新聞朝刊=
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