<ゴーン事件の底流>(2)自動車戦争 日仏ぶつかる国益
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121202000132.html

「出資比率と統治は現状通りが望ましい。世耕氏と、統治のルールは変わらないことで一致した」

 十一月二十五日の仏報道番組。仏ルノーと日産自動車、三菱自動車の三社連合について、仏経済・財務相ブルーノ・ルメールは、三日前の経済産業相の世耕弘成(せこうひろしげ)との会談内容をこう説明した。
会談は三社の会長だったカルロス・ゴーンの逮捕後、仏側の要請を受け、訪問先のパリで急きょ行われた。

 世耕はこの発言に強く反発。二十七日の閣議後会見で「日産のガバナンス(統治)に関して、何か他国と約束するようなことは全くない」と否定した。

 ルノーは日産株の43・4%を保有する筆頭株主で、仏政府はルノー株15%を保有する物言う株主だ。フランスでは、今回の事件をルノーとの関係を対等にしようとする日産側のクーデターとの見方が根強い。
仏大統領エマニュエル・マクロンと首相の安倍晋三の首脳会談が行われた十一月末のG20直前、仏経済紙レゼコーは「権力闘争になれば、われわれは大砲を持ち出し、ルノーに対して日産への出資比率を上げる
よう要請する用意がある」という仏政府幹部の言葉を紹介した。

 「大砲」はルノーの大株主としての強力な議決権行使を意味する。マクロンは経済相だった二〇一五年、ルノー株を買い増した上で、二年以上株式を保有する長期株主に一株当たり二票の議決権を認める
フロランジュ法を利用し、日産とルノーの経営統合に動いたこともある。

 ゴーン逮捕で、再び日仏の国益がぶつかり合うことになる。

◆特捜と連携、官邸は「サポート」
 カルロス・ゴーン逮捕翌日の十一月二十日、日産自動車専務執行役員の川口均が首相官邸を訪れ、官房長官の菅義偉(すがよしひで)に事件の経緯を説明し謝罪した。川口は「日産とルノーとのアライアンス
(提携)の関係でサポートしていただけるとお聞きした」と記者団に語った。一昨年五月の三菱自動車との提携発表前にも官邸で、菅に事前報告していた。

 仏マクロン政権はルノーと日産の経営を一体化し、日産車の仏国内での生産に意欲的とされる。日産には、独自性が失われ、ルノーにのみこまれていく恐怖感が募る。日産側の動きにも日本政府の影がちらつく。

 日産のある執行役員はゴーン逮捕後、政府と連絡を取り合っているのかという報道陣の質問に「(政府には)心配いただいている。今回の件だけでなく、フロランジュ法のときも日本政府としての考え方を
仏政府に伝えてもらった。国をまたがることなので、いろいろとお話をさせてもらっている」と明かした。

 検察との司法取引に協力した日産側の弁護士は元東京地検特捜部検事の熊田彰英。安倍政権や自民党の「守護神」とも呼ばれるやり手だ。

 日産は特捜部とも密に連携。米在住のグレゴリー・ケリーとゴーンが同時に来日するのは珍しく、日産側はゴーンの帰国スケジュールを特捜部に伝えていた。

 日産の川口は渉外担当が長く、大手企業幹部は「議員会館や霞が関でよく見かける。菅長官は地元が日産本社のある横浜で、事前に相談を受けていても不思議ではない」と推測する。

 自動車業界に詳しい大手監査法人関係者は、米司法省がカルテル容疑で摘発した日系自動車部品メーカー四十六社と役員三十二人が有罪(五月現在)となったことなどを例に分析する。「国対国の自動車戦争は
日米、米独で起きており、それが日仏でも起きたのでは」