安倍首相“お友達”財界人を怒らせた世耕経産相の官民ファンド騒動の不始末
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 前代未聞の役員報酬を巡る産業革新投資機構(JIC)と経済産業省の対立は、田中正明社長ら民間出身のJIC取締役9人の全員辞任劇にまで発展した。この争いで、図らずも官民ファンドの闇が浮かび上った。

 官民ファンドとは、政府と民間から集めた資金を用いて投資する政府系のファンドだ。明治大学公共政策大学院の田中秀明教授は官民ファンドが生れた背景をこう話す。

「日本の銀行は担保がなければベンチャー企業になかなかカネを貸さないわけですよ。お金は日本国内に一杯あるけれど、国民は定期預金が好きですし、なかなか、リスクのある投資に向かわない。それで官民ファンドが
始まったわけです。官民ファンドは、収益と政策の追求という矛盾する目的を持っています。今回の騒動の根源はそこにあります」

 官民ファンドは現在14あり、うち12が第2次安倍政権発足後に設立、改組されたもの。

「安倍晋三首相にとってはアベノミクスの看板だったわけですよ。だから、いろんな省庁にファンドが雨後の竹の子のようにできた。その中には数十億の累積赤字を作っているファンドもある。もともとは国民の税金なんですから、
責任を取るべきです」(前出の田中教授)

 農林水産省が設立した官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」は累積赤字が63億円、国土交通省所管の官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構」も累積赤字が46億円など赤字を抱えた状態だ。

 経産省は、JICの田中社長ら取締役に最大で1億円を超える役員報酬を約束していたが、高過ぎるという批判を浴び、白紙撤回したのが、騒動のきっかけとなった。

 元内閣審議官で経産官僚の古賀茂明氏はこうバッサリ斬る。

「もともとは経産省と田中社長の共同ビジョンだったはずです。サッカーにたとえて言えばスペインのバルセロナ所属のメッシ選手やイタリアのユベントスに所属するロナウド選手級の世界のトッププレイヤーレベルの投資の
プロを雇って、政府の大金をつぎ込んで大儲けするプロジェクトだった。世耕大臣だって、11月の会見で『優秀な人材を確保するための一定の相場観はある』と高額報酬容認の発言をしていたんです。普通に考えると、これは
世耕大臣も一緒になったプロジェクトだったと思います」

 それが急転直下、辞任劇となったのは、なぜか。日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が11月19日、金融商品取引法違反容疑で東京地検に逮捕され、高額報酬が世間の批判を浴びたことも影響したようだ。経産省は12月3日に
高額報酬の白紙撤回を慌てて発表した。

「経産省がファンド作りで舞い上がっていたところ、菅義偉官房長官から(高額報酬で)怒られて慌てたというふうに聞いています。そこから結局、仲間割れが始まった。世耕大臣は全部、田中社長のせいにして、田中さんだけを
切って逃げきろうとした」(古賀氏)

 世耕大臣と言えば、トランプ大統領との関税交渉や日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕された際には、フランスでルメール財務相と会談するなど、外交交渉で表舞台に立つことが多い。その世耕大臣は12月4日、記者会見し、
自身は監督責任を取って給与1カ月分を、嶋田隆事務次官を厳重注意処分として給料1カ月分の30%を返納すると、早々と処分を発表した。

「世耕さんは単なる監督不行き届きだけの責任を取り、あとは事務次官や他の人達に責任を押しつけ、私は慌てて止めさせたんだという絵にしたかったのでしょう。JIC関係者の話では、それに一番怒ったのは、意外にもJICの
社外取締役で取締役会議長の坂根正弘さん(コマツ相談役)だったそうです」(古賀氏)

 坂根氏は自らが辞めると言い出し、取締役9人全員の辞任に至るのに、大きな影響を与えたという。

「坂根さんは安倍首相のお友達。世耕大臣は安倍側近なので、坂根さんは田中社長ではなく、自分達についてもらえると思ったのでしょうね」(同前)

 それが誤算となり、田中社長は記者会見で「ここ数カ月間、次第に増幅されてきた経産相に対する不信感が、決定的なものになった」「日本は法治国家ではない」と経産省に対する不信を口にした。