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2019/01/30(水) 23:14:28.19ID:j40mZtaC9https://www.sankei.com/images/news/190129/wor1901290001-p1.jpg
トランプ米大統領が駐留米軍の撤収を表明したシリア北部の要衝マンビジュで16日、米兵など米国人4人を含む19人が死亡するテロが起きた。犯行声明を出したのは、トランプ氏が撤収理由として「勝利」を宣言していたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)だった。事件は、米軍撤収による「力の空白」が生む混沌の予兆といえる。(前中東支局長 大内清)
■利害が錯綜するシリア北部
シリア北部はここ数年、さまざまな国や武装勢力の利害が衝突する場所となっていた。IS掃討の名目で駐留していた米軍はその中で、軍事的なバランサー役を果たしてきた一面があった。
シリア内戦のどさくさで力を伸ばした少数民族クルド人の武装組織、人民防衛部隊(YPG)は、対ISで米軍と共闘することでその支援を取り付け、実質的な自治確立を狙った。
これに対し、YPGを「テロ組織」とみなす隣国トルコは、米国に支援停止を要請し続けてきた。トルコで武装闘争を展開するクルド労働者党(PKK)とイデオロギーを共有するYPGがシリア北部一帯を握れば、トルコへの深刻な脅威となりかねないためで、米軍撤収後はYPGへの本格的な軍事作戦を発動する可能性も高い。
YPGがこのところ、ロシアと接近しているとされるのは、米軍に代わる新たなパトロンとし、トルコを牽制するためだ。
YPGはまた、これまで緊張関係にあったシリアのアサド政権軍を昨年末にマンビジュへ招き入れている。これも、トルコ側にマンビジュ一帯での軍事行動をためらわせる狙いがあってのこととみられる。
■対イランでくさびの役割も
他方でシリアでは、内戦を通じてアサド政権を支えてきたイランが影響力を伸ばしている。
同国からイラク、シリアを経てレバノンに至る地域は、シーア派系勢力が有力なことから「シーア派の弧」「シーア派三日月地帯」などとも呼ばれるが、米軍駐留には、ここにくさびを打ち込む意味合いもあった。それは、同国と敵対するイスラエルやサウジアラビアなどの利害とも合致する。
イランとともにアサド政権を支援し、中東での影響力拡大を図るロシアにとっても、米国のシリア関与のあり方が重大関心事であることは言うまでもないだろう。
概観するだけで、シリア北部が中東情勢の焦点であることが分かる。そこに軍事的プレゼンス(存在感)を示してきた米軍が去れば、「力の空白」を埋めるために各勢力が策動することは避けられない。
そんな中で起きたISによるとみられる今回の自爆テロは、撤収に向けて動き出した米軍に一撃を加えることで戦闘能力と存在感を誇示する狙いがあると考えられる。ISもまた、空白に乗じて勢力回復を図ろうとするプレイヤーのひとつだ。
またこれに続く20日には、昨年以降、トルコの勢力下にあるシリア北西部アフリンでバスを狙った爆弾テロが起き、少なくとも市民3人が死亡した。トルコのメディアは、YPGあるいはその母体であるPKKの犯行だと指摘しているが、今後は米軍撤収によって焦りを強めるクルド勢力のテロが増加する事態も想定しておかなければならない。
■渦巻く謀略論
一方、こうした局面では、裏でテロに関与した者がいるに違いないとの憶測が飛び出すのも中東の常だ。著名なアラブ人ジャーナリストで中東ニュースサイト「ライ・アルヨウム」編集長のアブデルバーリー・アトワーン氏は17日の論評で、(1)米軍撤収に反対するクルド人勢力や、(2)米軍駐留に反発してきたアサド政権による関与説がある−などと紹介している。奇怪なものとしては、(3)米軍撤収に反対する米情報機関の関与説なるものまであるという。
これらの説の妥当性はともかく、多種多様な「謀略説」が飛び交うこと自体、各勢力の利害がいかに複雑に絡み合っているかを示している。
それを反映し、米軍のシリア撤収は、すでに泥沼化している情勢のさらなる混沌をもたらす可能性が高い。が、たとえ米軍が駐留を続けたとしても、絡まった糸をほぐすことはできない。駐留が長引けばコストが増大するだけでなく、「出口」が見えなくなる可能性もある。
その意味で、軍事的関与をも通じてシリア安定を図るという現行の路線にさっさと見切りをつけようというトランプ氏の決断は、実は賢明なのかもしれない。
産経ニュース 2019.1.29 07:00
https://www.sankei.com/world/news/190129/wor1901290001-n1.html