ボストンコンサルティング社長として名を馳せたビジネス界きっての読書家が、どう読書と向き合ってきたか、何を得てきたか、どう活かしてきたかを縦横無尽に語り尽くす。
自分を高める教養と洞察力が身につき、本を武器に一生を楽しむ、トップ1%が実践する『できる人の読書術』を説き明かす。


◆洞察力の背景にあるのは「見識」「知恵」「教養」

二流と一流の違いを生む「教養」は、読書で得られる。
そう聞くと、多くの人は納得するだろう。
では、一流と超一流の違いを生む「洞察力」は、一体全体、どうすれば得られるのか。それも、やはり読書なのか。
結論を急ぐ前に、洞察力とは何か、なぜ重要なのかを考えていこう。

洞察力は、英語で「insight」(インサイト)という。
洞察力と似た言葉に「観察力」がある。
しかし、観察力と洞察力は似て非なる言葉だ。

観察力は、目で見える部分をよく見て理解すること。
洞察力は、そこからもう一段階、知的に深い作業であり、観察しただけでは見えないものを、直感的に深く鋭く見抜く力だ。

洞察力のバックグラウンドにあるのは、見識であり、知恵であり、教養である。

ビジネスの世界では、洞察力がないと話にならない。
時代の流れを読めなければ、国際的な競争にも勝てないし、利潤の追求もおぼつかない。
日本企業でも、世界的に成功しているところは、優れた洞察力を持つリーダーが必ず存在する。
国際競争に競り勝つには、かくも洞察力が不可欠なのだ。

それと比べて日本のいまの政治家には、洞察力が決定的に欠如している。
なぜなら政治家には、国際競争が存在しないからだ。
政治家の選挙はどう広く考えても、基本的に都道府県単位での競争でしかない。
それが余計、国際的視野を持つ政治家が出てこない理由になっている。

100%あり得ない話ではあるが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やカナダのジャスティン・トルドー首相のような洞察力に優れた海外の政治家が、
「日本のリーダーになってもいいよ」と手を挙げたとしたら、競争力のない日本の政治家たちは誰一人として太刀打ちできないだろう。

◆これからの時代は超一流でなければ生き残れない

政治はともかく、つねに苛烈な国際的競争に晒されているビジネスの世界では、変化のスピードは、さらに目まぐるしくなる。
変化が日常化した環境下でビジネスを成功させるには、洞察力は絶対に欠かせない。

その意味では、これからの時代は超一流でなければ生き残れない。
二流は言うに及ばず、洞察力に乏しい一流のままでは、仕事がなくなっても文句は言えない。

たとえば、20世紀までの自動車は例外なく4輪で内燃機関のエンジンを積んでいるのが常識だった。
現在では内燃機関のエンジンの代わりに、ハイブリッドエンジンを積んで走っている自動車が増えてきた。

それどころか、EV(電気自動車)が積んでいるのは、エンジンではなくモーターである。
将来的には次世代の移動手段として、数人が乗って空も飛べる「空飛ぶ車」(スカイ・カー)が登場する日も近いという。
そうなってくると、4輪で内燃機関のエンジンを積んでいる時代に世界を席巻したトヨタやホンダといった日本企業が生き残れるかどうかは、
彼らが自動車の未来図をどう描けるかという洞察力の勝負になってくる。

人材と同じように、洞察力のない企業はせいぜい一流止まりであり、超一流同士がしのぎを削るグローバルマーケットからの退場を余儀なくされる。


堀 紘一(ほり・こういち)
1945年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、読売新聞経済部を経て、73年から三菱商事に勤務。
ハーバード・ビジネススクールでMBA with High Distinction(Baker Scholar)を日本人として初めて取得後、ボストンコンサルティンググループで国内外の一流企業の経営戦略策定を支援する。89年より同社代表取締役社長。
2000年6月、ベンチャー企業の支援・コンサルティングを行うドリームインキュベータを設立、代表取締役社長に就任。05年9月、同社を東証1部に上場させる。現在、取締役ファウンダ


ダイアモンド・オンライン 2019.03.10
https://diamond.jp/articles/-/195350?display=b