「いたずらURL貼って補導」がIT業界の萎縮をまねく理由

「何がセーフで何がアウトか分からない」――“不正なプログラム”のURLをネット掲示板に書き込んだとして、
女子中学生らが不正指令電磁的記録(ウイルス)供用未遂の疑いで家宅捜索を受けた件がネット上に波紋を広げている。

実際はJavaScriptのループ機能を使ったもので実害はほとんどなく、目的はいたずら。にもかかわらず補導された
事実は、2011年の刑法改正前から指摘されていた、あいまいな条文のグレーゾーンに警察が踏み込んだことを示している。

(中略)

まずは、いたずらURLを掲示板に書き込んで家宅捜索を受けたという女子中学生と男性2人の事件を読み解いていきたい。

■「いたずらで補導」報道が示唆すること
報道によると、兵庫県警はいたずらページのリンクを掲示板に書き込んだ女子中学生を補導した。
その内容は、JavaScriptのループ機能を使い、ポップアップを繰り返し表示させるというもの。
もちろん、いたずら行為自体は良くないことだが、なぜあえてこの件に踏み込んだのか。

オフラインの世界でも、未成年の取り締まりは日々行われている。「平成30年警察白書 統計資料」の「触法少年(刑法)
の罪種別補導人員」によると、2017年度は「触法少年」に限るだけでも1日平均で22人も補導されており、ことさら
女子中学生が大きく報道されたのはなぜか疑問が残る。

(中略)

警察は今回のいたずらプログラムをコンピュータ・ウイルスのようなものだと判断した。
ウイルス罪の要件を見てみよう。刑法168条の2は以下の通り。

(中略)

端的に言うと、「いわゆるコンピュータ・ウイルスの作成、提供、供用、取得、保管行為が罰せられる」ということだ。
今回の事件では、いたずらページのURLを掲示板に書き込んだことが「供用」と判断された。

警視庁のサイトでは、「ウイルス供用罪」を「正当な目的がないのに、その使用者の意図とは無関係に勝手に実行される
ようにする目的で、コンピュータ・ウイルスやコンピュータ・ウイルスのプログラム(ソースコード)を作成、提供する行為」と書かれている。

■IT業界が萎縮する可能性
注目したいのは、「正当な目的がないのに」「使用者の意図とは無関係に勝手に実行されるようにする目的」といった
文言だ。見方によっては、いたずら目的のURL書き込みに「正当な目的」はないし、画面の消し方が分からない人
にとっては「意図しない動作」といえなくもない。

しかし、解釈の幅が広いあいまいな文言を基に摘発されるのは、なかなか恐ろしいことだ。
「我が国のIT業界の萎縮を招きかねない」(平野弁護士)と表現するのは決して飛躍ではないだろう。

(中略)

後々禍根を残しそうな立法が成立しそうなときは、慎重に議論を進め、ときにはパブリックコメントなどで意見を表明する
ことも重要だ。ウイルス罪についても声を上げ続けていく必要があるだろう。仮に警察が積極的にグレーゾーンに踏み込む
意思を示したのであれば、新しい技術の芽はそのたびに摘まれてIT業界は萎縮し、日本の競争力が下がってしまう可能性も否定はできない。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1903/08/news119.html

ITmedia ニュース 村上万純 2019年03月08日 20時06分

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