https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190501-00011807-bunshun-soci

私は日本の都会の通勤時間帯の電車が嫌いである。ただし単純な混雑だけが理由ではない。
胃が悪いらしき病的な口臭やストレス臭を漂わせた人や、生気に欠けた暗い目をした人が極端に多く、
不吉かつ異様な雰囲気が充満しているからだ。海外から帰国したり地方から上京した直後にこの手の電車に乗り、
「スーツを着たゾンビ」さながらの集団を目にすると、生命エネルギーをゴリゴリと削られるような錯覚すら覚える。


平成30年間の“悲しい現実”にぴったりの名言

しかも、彼らがそんな姿になってまで通勤した先では、しばしば長時間労働やパワハラ、理不尽な顧客のクレームが待っている。
たとえ労働者が主観的には「がんばって」いても、日本人の労働生産性は先進7カ国のうちで最低だ。多くの人は退屈で非効率的な行為を
「仕事」であると必死で思い込もうとしているにすぎない。得られる年収は300〜400万円かそれ以下という人も少なくない。

労働市場の流動性は低く、健康を害するなどして一度ドロップアウトすると、以前と同様の水準の仕事に復帰することは難しい。
なので女性の結婚や出産も簡単ではない。日本の保育環境のもとでは妻側が出産後に退職や非正規労働への転落を余儀なくされる
場合も多く、生活は苦しくなる。

それでも社会の未来に期待を持てるならいいが、高齢化は加速度的に進んでおり、現時点ですら現役世代約2人で65歳以上の
老人1人を支える計算だ。現役世代がストレスフルで非効率的な労働を通じて稼いだわずかなカネは、未来の日本を素晴らしいものに
するためではなく、老人を養うために注ぎ込まれていく。

平成の30年間に進行した悲しい現実である。そんなことを考えていると、15年前に登場したある名言に圧倒的な説得力を感じてしまうのだ。
それはすなわち――。

「働いたら負けかなと思ってる」


真っ向から「勤労」を否定する衝撃

この「働いたら負けかなと思ってる」の初出は、2004年(平成16年)9月にフジテレビの番組『とくダネ!』で放送されたニートの男性の発言である。
さらに番組中では「今の自分は勝ってると思います」という言葉も続いた。いまや、「ニート」(Not in Education, Employment or Training, NEET)
はすっかり一般名詞として社会に定着したが、当時はまだ珍しい言葉であった。

番組中に登場したニートの男性は丸刈りで、常に薄笑いを浮かべて口元から尖った歯をのぞかせるいう特徴的な外見であり、
しかも日本国民の三大義務である「勤労」を真っ向から否定する発言が当時としては衝撃的だったことから、2ちゃんねるでア
スキーアートが作られるなど、ネット空間を中心に一種のフィーバーを巻き起こすことになった。

その後、ニートの概念が社会で広く知られていくいっぽう、「働いたら負け」という言葉もネット空間を中心に定着した。
2011年には人気ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』に登場した、脱力系女子という設定のアイドル双葉杏(ふたば あんず)が
この言葉がプリントされたTシャツを着用している。

また、番組に登場したニート男性の姿も、放送から15年が経った現在もなお人々の記憶に残っているらしい。
ネットを見てみると、ZOZOTOWNのコミュニケーションデザイン室長を務める田端信太郎氏が、外見的な相似を理由に
「ニート男性のその後である」といった都市伝説が語られるなどしている(んなわけあるか)。