「ハイテンションボルト」が足りない 五輪建設ラッシュで8カ月待ち、国交省は異例措置 スーパーもスタジアムも工事遅れ
6/3(月) 7:03配信
西日本新聞

「ハイテンションボルト」が足りない 五輪建設ラッシュで8カ月待ち、国交省は異例措置 スーパーもスタジアムも工事遅れ
高力ボルトを取り付ける作業員。溶接をせずに鉄骨をつなぐことができる(国土交通省提供)
 「ハイテンションボルトを探しています」。特命取材班に、関東や九州の読者からSOSが寄せられた。

【写真】入手困難な状況が続いている「高力ボルト」

 ジャマイカの元陸上選手ウサイン・ボルト氏が、100メートル走の世界記録を更新して歓喜する姿が脳裏に浮かんだが、ビルや橋などの建設に使う「高力ボルト」のことだった。建設現場で何が起きているのか。

 橋や鉄骨構造物を建設する際、金属板や鋼材をつなぎ合わせるには、かつては溶接や、びょうを打つリベット接合が一般的だったが、手間がかかる。高力ボルトは普通のボルトよりはるかに強い力で締め付けられ、摩擦力による「摩擦接合」で鉄骨をつなげる。耐久性があり、引っ張りにも強い。団塊世代の退職ラッシュで深刻化した溶接工不足も、普及に拍車をかけたという。

 神奈川県内の建設業者によると、昨夏から高力ボルトが入手しにくくなり、昨年末に着工予定だったマンションの建設がストップ。当初は今年5月末に完成予定だったが工程が組めなくなった。「資材の置き場所代や工期延長による経費がかかる。施主にとっても、完成が遅れた分、銀行からの融資の金利が負担になる。建設業者、工務店、施主の三者が共倒れしかねない」と悲鳴を上げる。

 ボルトが入手できず、完成遅延による損害賠償請求に発展した事例もあるほか、通常の数倍の単価で取引された例もあるという。

 九州でも佐賀県や長崎県のスーパーの着工が遅れるなどしており、福岡市内の建築事務所は「『品質に不安がある海外製のボルトを使わざるを得ない』という声も出ている」と打ち明ける。

「ハイテンションボルト」が足りない 五輪建設ラッシュで8カ月待ち、国交省は異例措置 スーパーもスタジアムも工事遅れ
長崎市の稲佐山に新設されるスロープカーのデザイン。高力ボルト不足で工期が大幅に遅れている(長崎市提供)

(略)

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 ボルトがないから工事ができないという異常事態。一体何が原因なのか。

 福岡県行橋市などに製造工場があり、業界最大手の日鉄ボルテン(大阪市)によると「2020年東京五輪・パラリンピックに伴う建設ラッシュで、工場の生産能力を超える需要が発生した」という。

 国土交通省が3月に実施した高力ボルトの需給動向調査では、調査対象の9割以上が「ボルト不足が工期に影響した」と回答。うち1割弱は工事の受注取りやめを余儀なくされていた。通常は1〜2カ月とされる高力ボルトの納期が全国平均で約8カ月、九州でも約7・4カ月に伸びていることが分かった。

 同省労働資材対策室は「ボルトの欠品を懸念する建設各社が、できるだけ多く確保しておこうと過剰に発注しており、市場の混乱による一時的な現象」と分析。5月中旬、国が専用の注文書をつくって必要な分だけ発注するよう建設業界に促す異例の措置に出た。

 高力ボルト協会は「オイルショックでトイレットペーパーが売り切れた時の状況に似ている。五輪特需なのか、過剰発注によるものなのか、なんとも言えない。2025年には大阪万博もあり、解消のめどは立っていない」と話している。

 ボトルネックならぬ「ボルト」ネック――。長引けば、全国各地で建物の完成が遅れ、さまざまな業界にも影を落としかねない。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190603-00010000-nishinp-bus_all