「困っているなら、これを使って」。先月29日夕、東京・池袋の駅で、ICカードの残高不足で、帰宅できなくなった東京都立特別支援学校高等部1年の男子生徒(16)=東京都足立区=に高齢の夫婦がそう声をかけ、1000円札を手渡した。行き違いではぐれた母、福田恭子さん(59)は「こんなに親切な人に出会えるなんて感謝しかない」とツイッターに投稿し、連絡先が分からない夫婦に会い、お礼を伝えたいと考えている。【山口朋辰/統合デジタル取材センター】

 ◇残高9円、母と行き違い

 29日午後6時ごろ、福田さんの長男の男子生徒はJR池袋駅の北改札で立ち往生していた。自宅最寄りの北千住駅まで帰るつもりだったが、カード残高が9円しかなかった。その姿を見た高齢の夫婦が長男に近づき、「これを使って」と1000円札をそっと渡した。長男がカードのチャージを終えると、既に夫婦の姿はなかった、という。福田さんによると、長男は自身の状況を言葉で具体的に説明することが苦手だという。

 4月に都内の支援学校に入学した長男は電車で通い、福田さんも付き添っていた。1人での通学に慣れ始め、下校時に2人が落ち合う場所は校門から最寄り駅の道中に変わっていた。この日は、普段より1時間早い午後2時半に授業が終わり、下校時間が早まったこともあって2人は行き違い、会うことができなかった。長男の携帯電話も、ちょうど解約したばかりだった。

 10日ほど前、福田さんは冗談半分で「早く授業が終わる日は、池袋に行けたらいいね」と長男に話した。このことから、長男は「先に行った恭子さんを追いかけなければ」と思い、自宅に帰らずに池袋駅を目指したとみられる。ダウン症の長男は計算が不得意で、お金の価値をしっかりと把握できないので、ICカードに高額の入金をしないようにしている。福田さんは残高が数百円と把握しており、「そろそろチャージしなければ」と思っていた。

 長男のかばんには、援助や配慮の必要性を知らせる「ヘルプマーク」が付けられ、道に迷ったり、はぐれたりしたときは、最寄りの交番に行き、マークに記載された福田さんの携帯電話に連絡を頼むよう伝えていた。長男の説明によると、駅周辺で2時間ほど福田さんを待ち、疲れたため帰宅しようとした際、夫婦が1000円札を渡してくれたという。長男は午後7時前に自宅に戻ってきた。

 1日10万人以上の乗降客があるターミナル駅での出来事に、ツイッターでは「殺伐とした世の中、捨てたもんじゃない」「その1000円は神様のバトン。巡り巡ってほんわかバトンはそのご夫婦に届くはず」など、温かい投稿が相次いでいる。福田さんは「長男は失敗と体験を積み重ねて、生活力を身につけており、すてきなご夫婦に多くのものをいただいた。直接会ってお礼がしたい」と話している。連絡は、福田恭子さん(*****@gmail.com)まで。

6/4(火) 10:59
毎日新聞
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