盆や正月だろうが、クリスマスだろうが、見ない日はない美容整形のテレビCM。電車に乗っても街を歩いても「脱毛しよう」「痩せよう」といった広告に埋め尽くされ、一体どれだけの「市場」があるのか、どれだけ儲かる「仕事」なのかと考えてしまう。

「美容整形や痩せ薬、育毛や脱毛といった「コンプレックス商材」といわれる商品は、売れた際の利益率が高く、ガンガン広告を打ってもそれだけの見返りが期待できる」と広告代理店勤務X氏は語る。様々な媒体にコンプレックス商材の広告を多数出稿しているが、「効果には個人差があるので」と断りを入れ、「どのように利用して満足するかは、あくまでご本人の決断ですから」とも話す。

 その本人の決断が、家庭崩壊へ繋がってしまった例がある。

「結局全部で600万円もいかれました。最後は家族にもバレて、妻子には逃げられました。どうすればよかったのか」

 神奈川県在住の会社員・中沢政幸さん(50代・仮名)は、十代の終わり頃から「生え際の後退」を意識し始めた。生家にある仏壇に飾られた代々親族の写真には、まばゆいばかりの光を頭から放つ祖父、曽祖父の姿…。ハゲは覚悟していたが、手遅れにならないうちにと様々なヘアケア、育毛方法を実践してきた。ハゲ上がらないうちに、と二十代前半で妻にプロポーズし、結婚した。

「それこそ、毎日わかめご飯を食べ、毎月育毛剤だけで数万円の出費でした。しかし、努力もむなしく二十代後半ですっかり薄くなってしまった。営業職だったので印象も良くないだろうと思い、転職を機についに“かぶって”しまったんです」

 カツラメーカーに電話をし、その日のうちに店舗を訪れたと言う中沢さん。美人の「カウンセラー」に言われるがまま、一つ30万円もするカツラを三つ購入した。計90万円の出費は痛すぎるが、こういう事態を想定しておいた「へそくり」であり、妻には内緒で仕事中は「かぶり」続けた。

「カウンセラーからは“見違えた”とか“モテて離婚しないでくださいね”と持ち上げられて…。実際かなりイケているのではないかと自分でも感じて、日々の生活が充実したような気になりました。三つ買うのは、ローテーションで使うからだし、仕方ないなと…」 その後、二週間に一回のペースで「メンテナンス」名目で店舗を訪れていた中沢さんだが、美人カウンセラーから毎度言われたのは「カツラの傷みが激しい」とか「新商品がある」という営業トークばかり。そもそも新商品を買う金もない。だが、相手はプロだった。

「美人のカウンセラーからデートに誘われたり、一緒に歩くのに“カツラだってバレバレだから恥ずかしい”などと言われ始めましてね。今考えれば完全にデート商法だったんですけど、言われるがままに50万円の新商品をまた三つ買ってしまったのです。ローンは、カツラ業者が提携しているというノンバンク系の金融会社が簡単に通してくれました」

 以後、中沢さんが泥沼にはまってしまうことは想像に難くない。デートを経てカツラを売りつけた女性カウンセラーが辞めると、新たなカウンセラーが同じように言い寄ってきては、あの手この手でカツラを買わされた。40代前半で、カツラだけでの借金は500万。サラ金や街金からも相手にされなくなると、カツラ業者から連絡が来ることもなくなった。

「情報が漏れたのか、我が家には一週間で10通以上、育毛剤やカツラのダイレクトメールが届くようになり、悪いことにそこでもインチキな育毛剤を100万分買ってしまったんです。業者から闇金を紹介され購入したのですが、結局それが仇となり妻にバレ“このハゲ!”と言われて離婚です…」

 それなりの収入もあったために、自己破産や債務整理も認められず、いまだにカツラ代を支払っているという中沢さん。スーツにゴルフメーカーのキャップという不思議な出で立ちには違和感を感じざるを得ないいが…。

「格好が多少変でも、ハゲがバレなきゃいいんです。この気持ち、皆さんにはわからないんですよ。私は騙されましたが、今に本当に効果がある薬剤が開発されるかもしれない。育毛剤は、今でもたくさん試している。いわば鉱脈探し、宝探しのような。人生のテーマなんです」

 600万あった残務も、もうほとんど返し終えた中沢さん。新たなハイエナたちが、中沢さんに襲い掛かることがなければ良いが…。

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