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SOCIETY
8min2019.7.7
「お父さん、私たちのことを考えること、ある?」
セックス・ツーリストの父親に“置き去り”にされる子どもたち

フィリピン、マニラの北西85Kmにあるアンヘレス市。そのスラムに暮らす子どもたちの顔つきは、国際色豊かだ。肌の色が薄い子もいれば、黒人系の子、韓国人を思わせる容姿の子や白人っぽい子もいる。

なぜか?──それは、子どもたちの父親が「セックス・ツーリスト」だからだ。遠い異国の父に“置き去り”にされた子どもたちを、英紙「ガーディアン」の記者が訪ねた。

10歳になるブリジッド・シカットは、今日、学校を休むことにした。色褪せた「くまのプーさん」のTシャツを着た彼女は、ダブルベッドの上で膝を抱えて座っている。

家のスペースの半分近くを占拠しているこのベッドで、ブリジッドは夜になると祖母(61)と2人のいとこと一緒に寝る。頭上にある波型鉄板でできた屋根は、雨漏りがする。今日はモンスーンの雨が絶え間なく降っているせいで、床は“泥のぬかるみ”と化している。

ブリジッドといとこのアリアンヌ(11)が今日学校を休むのは、腹痛のためだ。家にはトイレも水道もなく、(焚き火をしない限り)調理用の火もない。ブリジッドは体調が良い日でも、学校まで10分の道も歩けないほど、お腹が空いていることが多い。

ブリジッドの母親はセックスワーカーだ。そして父親は“イギリス”という遠い国にいる──ということをブリジットは知っている。名前は「マシュー」だが、苗字は知らない。

もし父親にメッセージを送れるならばどんなことを伝えたいか?──そう尋ねると、ブリジッドはすこし言葉を詰まらせた。だが次の瞬間、堰を切ったようにタガログ語でこう話した。
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「私たちは父に会って、父がどうしているのかを知りたいんです」という双子のメラニーとマデリン Photo: Dave Tacon / Polaris
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ひとつのダブルベッドで祖母と2人のいとこと一緒に寝るというブリジット(10) Photo: Dave Tacon / Polaris
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