※夜の政治

社民党の国政選挙での勢力推移
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 令和最初の国政選挙である第25回参院選(21日投開票)で、社民党はかつてないほどの「負けられない戦い」を強いられている。7人の候補を擁立したが、結果次第では公職選挙法上の政党要件を失う恐れがあるためだ。国政選挙で不利益が生じかねないが、不思議と政党交付金は今回の結果に関係なく令和4(2022)年まで支給されることが決まっている。政党要件の定義が公選法と政党助成法などで違うことが理由だが、一体どういうことか。

 「瀬戸際、崖っぷちの戦いであり、正念場の戦いでもある。結党以来、憲法を守ることを党是としてきた社民党。国政政党として、これからも国会で働かせてほしい」

 社民党の吉川元(はじめ)幹事長は参院選が公示された4日午前、東京・新宿のJR新宿駅南口で第一声を上げ、まばらな聴衆に切々とこう訴えた。

 危機感の根底には厳然たる「勝敗ライン」が横たわる。公選法上の政党要件として、(1)国会議員5人以上(2)直近の衆院選または参院選で、選挙区か比例代表の得票率2%以上−のどちらかを満たさなければならない。

 前身の社会党時代に衆院だけで最大160人超の議員を擁した勢いは、もはや見る影もなく、達成は容易ではない。所属議員は、今回改選ながら出馬しなかった又市征治党首(74)=当選3回=を除けば衆参両院でわずか3人だ。

 又市氏は、肺がんの手術で右肺下半分を切除し、健康不安から4選への挑戦を見送ったとみられる。党首として来年2月までの任期は全うする考えだが、トップが国会議員でなくなることは間違いなく党全体の士気に影響する。

 得票率も厳しい。前回の平成28年参院選こそ比例代表は2・74%とかろうじてクリアしたが、29年衆院選は選挙区(1・15%)と比例代表(1・69%)のいずれも基準に達しなかった。

 現在は28年参院選の比例「2%以上」でかろうじて政党要件をクリアしている状態なのだ。

 社民党は今回、改選数4以上の東京、神奈川、愛知の3選挙区に1人ずつ、比例代表に4人の計7人を擁立した。うち5人が女性で「3議席以上獲得」「比例得票率2%以上の確保」を目標に掲げる。

 ちょうど30年前に40議席超を積み上げて与野党逆転をなす大勝を果たし、土井たか子社会党委員長が「山が動いた」と表現した平成初の参院選と比べれば、隔世の感がある。

 目標を達成できなかった場合、歴史ある国政政党の看板に響くだけでなく、今後の国政選挙を戦う上で不利を余儀なくされる。衆院選で選挙区の政見放送は政党でなければ参加できず、事務所設置や選挙カーの使用、ビラ配布、ポスター掲示は政党の分がなくなり、候補者個人に限られる。

 一方で資金面は、今回の選挙結果によって即座に苦境に追い込まれるわけではない。

 政治資金規正法と政党助成法は、政党の定義を(1)国会議員5人以上(2)国会議員1人以上、かつ直近の衆院選か過去2回の参院選で、比例代表または選挙区の得票率2%以上−のどちらかに該当する政治団体としている。

 公選法と異なるのは、得票率について前々回の参院選まで含めている点だ。今回の参院選が終われば、前々回は2%要件をクリアしている平成28年参院選となり、3年後の令和4年参院選までは政党として適用を受けられるというわけだ。

 ただ有権者には分かりにくい。

 法律によって政党要件が異なる点について、日大法学部の岩井奉信(ともあき)教授は「整合性が取れていないのは問題だ。国会のご都合主義のようにも見える」と指摘する。岩井氏は「政党交付金の原資は税金であり、有権者が納得できるよう得票率の規定は公選法に合わせて一本化すべきだ」とも語る。

 仮に政治資金規正法上の政党要件を失えば、会社や労働組合からの寄付を受けられなくなる。個人からの寄付の年間限度額も、政党は2千万円だが、政治団体は1千万円に減額する。

 政党助成法上は、政党だった期間に応じて政党交付金の金額をもとに算出する「特定交付金」が出る。政党要件を失った「日本のこころ」に平成29年、4109万円が交付されたが、億単位の政党交付金に比べれば圧倒的に少ない。

 いずれにしても今回の参院選が、社民党の命運を左右する「天王山」であることは間違いない。

 吉川氏は4日夜のNHK番組で、村山富市元首相から「とにかく前に進め」と激励されたことを明らかにした。選挙後に見せるのは笑顔か、それとも…。(政治部 清宮真一)

産経プレミアム 2019.7.8 01:00
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