東証一部上場のオフィス用品通販大手「アスクル」で経営権を巡る騒動が勃発した。発行済み株式の45%を握る筆頭株主のヤフーが6月末、突如としてアスクルの岩田彰一郎社長に退陣を要求していたことが、このほど明らかになった。

アスクル側は指名報酬委員会や取締役会など正規の手続きを経て決定した取締役候補であることを理由に、ヤフー側の要求を拒否。8月2日の定時株主総会に向けて7月16日に公表した総会招集通知には、岩田社長を含む取締役10人の選任議案を掲載した。

これに対してヤフー側は、この会社提案に対して、株主総会で反対する意向を会社側に伝えた模様だ。

ヤフー側は会社側提案に代わる株主提案などを期日までに提出しておらず、株主総会で会社側提案に反対する場合は、修正動議などを出して岩田体制に代わる取締役を選任する可能性もある。もっともその場合、ヤフー以外の株主は事実上、投票に参加できないことになり、上場企業の手続きとしては極めて異例だ。

6月にはLIXILグループなどで経営権を巡る争いが表面化したが、大半は会社側提案に対抗して株主提案が出されたり、少数株主の保有する株式を買い取るTOB(株式公開買い付け)などの手続きが取られている。

アスクルは文房具大手プラスの事業部としてスタート、1997年に会社を設立した。オフィス用品通販で急成長し、2004年には東証一部に上場した。社長の岩田氏はプラスのアスクル事業部の部長などを務めるなど当初から事業に関与、会社設立以来、社長を務めてきた。

2012年に一般消費者向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」を立ち上げるため、ヤフーと業務資本提携、ヤフーが大株主となった。その後、ヤフーが45%まで株式を買い増しし、国際会計基準IFRSの連結対象にしている。

もっとも、業務資本提携では両者の関係を「イコール・パートナー」としたうえで、上場企業としてアスクルの独立性は維持することが明記されているという。資本では議決権の大きな割合を握ったとしても、経営の独立性は保証するとしたわけだ。実際、ヤフーの宮坂学・前社長との間ではこの約束が守られ、良好な関係が維持されていたと言う。

「ひ孫」会社が上場…?
状況が変ったのは、ヤフー社長が宮坂氏から川邊健太郎氏に代わった昨年以降。2018年秋にヤフー側からLOHACO事業の分離を求める提案がなされ、2019年1月にはLOHACO事業をヤフーに譲渡するよう正式要請があったという。アスクル側は、この提案を社外取締役などにも諮ったうえで、今後成長が見込めるLOHACO事業の売却はアスクルの既存株主の利益につながらないとして正式に拒否したという。

それ以降、岩田社長への退陣要求を強めているとされ、ヤフーの意思に忠実な社長へのすげ替えを画策しているとみられている。アスクル側はこうした行動自体が、業務資本提携に反するとして強く反発しているという。ヤフー側が株主提案などを正式に出さないのは、この業務資本提携契約があるためとみられる。

金融関係者によると、業務資本提携には、相互の信頼関係が崩れた場合には、ヤフーが持つアスクル株式を買い戻すことができるという契約も含まれているといい、アスクル側は株の買い戻しも検討している模様。ヤフー側が売却に応じれば、大手ファンドや取引先企業などに幅広く株式保有を求めていくことになる見通しだという。

もっとも、現実的にはヤフーがアスクルの株式売却に応じることは難しいとみられる。アスクルの業績は、連結決算によってヤフーの決算に大きく貢献しており、アスクルを切り離した場合にはヤフー自体の企業価値が低下することになりかねないからだ。もともとヤフーがLOHACO事業の譲渡をアスクルに求めたのも、ヤフーの通信販売事業を強化してヤフーの株価上昇を狙ったものとみられる。

ヤフーが突如として強権的にアスクルの支配権を得ようとしている背景には、ソフトバンク・グループが進めているグループ再編があるとみられる。

全文
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/16784098/