https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190723-49080320-bbc-int
マラリアを引き起こすマラリア原虫で、従来の治療薬が効かない種類が東南アジアで急速に増えている。イギリスとタイの研究者たちが指摘している。
このマラリア原虫は、カンボジアからラオス、タイ、ヴェトナムへと生息地を広げている。
そこではマラリア感染患者の半数が、最初に投与された治療薬では回復できていない。
研究者たちは、薬に耐性のある種類がアフリカにも広がるという「恐ろしい見込み」を示唆する発見だと述べている。
ただし、影響は当初考えられたほど深刻ではないと、専門家たちはみている。

■何が起きている?
マラリアの治療薬には、2種類(アーテミシニン、ピペラキン)の複合薬が使われる。カンボジアでは2008年に、この複合薬の使用が始まった。
ところが2013年までに、両方の薬に対して耐性をもつように変異したマラリア原虫が、同国西部で確認された。
英医学誌ランセットの感染症版に掲載された最新の研究は、東南アジア全域の患者から採取した血液のサンプルを分析。
マラリア原虫のDNAについて調べたところ、薬に耐性のある種類はカンボジアで広範囲にみられたほか、ラオスやタイ、ヴェトナムでも発見された。
また、変異が進み、問題がさらに悪化しているケースも確認された。地域によっては、マラリア原虫の80%が薬への耐性をもっていた。
「この種類は広がりを見せ、悪化している」と、ウェルカム・サンガー研究所のロベルト・アマト博士は、BBCニュースに話した。

■マラリアは不治の病となるのか?
そんなことはない。ランセットに掲載された別の研究では、患者の半数で、標準的な治療法の効果が認められなかった。
しかし、その代用となり得る薬がある。
英オックスフォード大学・臨床研究ユニット(ヴェトナム)のトラン・ティン・ヒエン教授は、
「耐性の広がりと度合いからすると、代わりの初期治療法を急いで採用する必要があることは明確だ」と話した。
代替の治療法としては、アーテミシニンと一緒に別の薬を使うことや、より強力な3種類の複合薬を使用することが考えられる。

■心配点は?
これまでマラリアの絶滅に向けて、目覚しい進歩が実現してきた。だが、薬への耐性をもつ種類が発生していることで、その進歩は脅かされている。
もうひとつ気がかりなのは、耐性のある種類がアフリカまで広がるかもしれないことだ。マラリア発症の90%はアフリカで起きている。
「勢力を非常に拡大している、耐性を備えた種類のマラリア原虫は、新たな領域に侵入し、新しい遺伝特性を身に着ける能力がある。
そのため、マラリア発症のほとんどが起きているアフリカに広がり、1980年代にクロロキン耐性をもった種類が何百万人もの死者を出したようなことが
起こるかもしれないという、恐ろしい見込みを示している」
と、ウェルカム・サンガー研究所にも所属するオックスフォード大学のオリヴォ・ミオト教授は説明した。

■現地住民への影響は?
この発見で、東南アジアの大メコン圏で暮らす人々の日々の生活が大きく変わることはない。
マラリアとの闘いは、感染後に正しい治療法を選ぶだけではない。マラリアを媒介する蚊を抑制するための並々ならぬ努力は、これからも変わらない。
しかし、感染後に患者に投与する薬は変える必要があると、研究者たちは指摘する。
マラリア原虫の遺伝子の解析は、薬に耐性をもつ種類が誕生しても、医師たちが常にその一歩先を行き、患者を適切に治療するのに役立つことを、
今回の研究は示している。

■これが全体像を示している?
耐性をもつ種類の原虫が拡大している地域では、感染そのものは減少している。
「恐ろしい原虫なのは間違いない」と、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のコリン・サザランド教授は言う。
「だが、全体数が急減していることから判断すると、あまり適応していないのではないか」
カンボジアにおけるマラリアの感染件数は、次の通り――。
・2008年:26万2000件
・2018年: 3万6900件
薬に耐性のある原虫は間違いなく広がっている一方、それは必ずしも地球規模の脅威ではないと、サザランド教授は言う。
「影響は私たちが思うほど深刻ではない」

■マラリアは恐ろしい?
マラリアには毎年、世界全体で約2億1900万人が感染している。
症状は、悪寒と震え、高熱、激しい発汗などが見られる。治療をしなければ、マラリア原虫が呼吸困難や臓器不全を引き起こす場合がある。
マラリアによる死者は毎年、約43万5000人に上る。そのほとんどは、5歳未満の幼児だ。