https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/07/post-12629.php
■Cannabis Might Fight Superbugs
<大麻に含まれるカンナビジオールが耐性菌対策のカギになりそうだという研究が>
 抗生物質が効かない「耐性菌」の広がりを食い止めようと科学者が知恵を絞るなか、意外な救世主候補が現れた。
大麻(マリフアナ)成分が、抗生物質も効きにくい細菌に有効である可能性が明らかになったのだ。

オーストラリアのクイーンズランド大学分子生物科学研究所のマーク・ブラスコビッチ上級研究員らの研究チームによると、細菌に効果があるのは
大麻に含まれるカンナビジオール(CBD)。高揚感をもたらすことはなく、リラックスや痛み緩和の効果があるとされる成分だ。
抗生物質に強い耐性を示す細菌を含め、実験で使った全ての菌株に効き目があったという。

さらに、CBDに20日間さらされても細菌は耐性を獲得しなかった。
一般的な抗生物質なら、生き残る菌が出現する時期だ。
研究チームが用いたのはグラム陽性菌と呼ばれるもの。院内感染の代表的な原因菌である黄色ブドウ球菌、肺炎レンサ球菌、
そして免疫システムが弱い人なら死に至る危険もある腸球菌だ。

マウスを使った予備実験では、CBDが皮膚感染に効果があると示された。
「どのような仕組みかまだ分からないが、他の抗生物質への耐性を獲得した細菌に効いたことを考えると、CBD特有の作用があるのだろう」
と、ブラスコビッチは分析する。

「現時点では、皮膚表面に局所的な効果があることしか分かっていない。実際に役立てるには、肺炎を含む全身性感染症など、
経口投薬や静脈注射が必要な病気にも有効だと明らかにする必要がある」

広い意味での耐性菌対策を考えれば、あまり研究されていない物質にも抗生物質として使えるものがある可能性が示されたと言える。
研究の成果は6月の米微生物学会の年次総会で発表された(ただし、査読付き学術誌には掲載されていない)。

■焦って摂取しても危険
オーストラリアのクイーンズランド州政府は大麻成分の利用を規制しているため、研究室でCBDを扱う許可をもらうのに苦労したとブラスコビッチは振り返る。
天然の大麻由来ではなく、「グレーゾーン」に当たる合成CBDを使用したが申請は必要だったという。
では、抗生物質を嫌う人が大麻由来の民間療法を利用するのはどうなのか。「それは非常に危険だ」と、ブラスコビッチはクギを刺す。
「今回の実験はほとんど試験管内でのこと。人間の感染症に応用できるかについては、まだまだ検証が必要だ」

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンドルー・エドワーズ講師(分子微生物学)は
「CBDの抗菌的特性はこれまで知られていなかった。薬剤耐性のある菌株に対して作用がありそうだと分かったことは重要だ」
と、実験に関わっていない立場から本誌に語った。
「CBDの利用については、かなり研究されている。感染治療に効果があるとはっきりすれば、すぐに臨床利用まで進むのではないか」
と、エドワーズは言う。
ただし今回の研究では、グラム陽性菌に効くことしか分かっていない。抗生物質の開発が難しいグラム陰性菌については効果がみられなかった。

てんかんや炎症の治療では、CBDは既に臨床段階にある。
5月にはアメリカの研究チームが、麻薬性のオピオイド鎮痛薬の依存症に苦しむ患者の治療にCBDを利用できる可能性を示した。
その裾野は確実に広がっている。