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甚大な冠水被害が出た佐賀県大町町。順天堂病院周辺の水はほとんど引いたが、鉄工所から大量の油が流出しており、
農業や漁業への影響が懸念される。自衛隊などが30日から除去作業を本格化させるが、難航が予想され、復旧の見通しは立っていない。

民家と田畑が混在する一帯では早朝から、住民が片付けに追われた。冷蔵庫やタンスが倒れ、汚れた衣服が散乱する室内は、
至る所に黒い油がべっとり。鼻を突くような異臭も漂う。

自宅を3月に新築したばかりの会社員、南川康弘さん(58)は「流出を鉄工所が早く公表していれば、被害を減らせたのではないか」と憤り、
田んぼが油まみれの水に漬かった女性(70)は「米農家なのに、米を買わなければならないかも」と肩を落とした。

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県や国土交通省によると、佐賀鉄工所大町工場から漏れた油は約5万リットル。流出範囲は付近を流れる六角川の河口から上流に
2〜17キロ付近とみられる。病院周辺の油は30日朝から自衛隊が除去を進め、県も31日に職員30人を派遣する。数日で取り除ける見込みだ。

一方、住宅をむしばんだ油については行政の支援は手つかず。具体的な対策の検討はこれからだ。

農業への影響も深刻だ。県によると、農地に付いた油を拭き取るのは難しく、油が自然に分解されるには年単位の時間がかかる場合もある。
石灰などで分解を促進する手段もあるが、対応は検討中で「被害の全容もまだ見えない」という。

国交省は六角川河口近くの有明海で油膜を確認。流出した油の可能性もあり、佐賀県有明海漁協は「ノリ養殖に影響が出ないか不安だ」と話す。

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「ご迷惑をお掛けしています。日を置いて改めて来ます」。30日、佐賀鉄工所の社員は被災者宅を訪ねて謝罪し、社員ら約200人が油の除去作業を行った。

鉄工所や県によると、漏れたのは工場で作る車用ボルトを冷却する油で、地中に埋まった油槽8基に約10万リットル保管。
24時間体制でボルトを製作しているために油槽にふたがなく、浸水であふれ返ったとみられる。

工場では1990年の大雨でも油が流出。油槽がある床を数十センチ高くするなど対策を取っていたが、雨量が想定を上回ったという。
佐賀鉄工所の太郎丸健常務は「皆さまが元の暮らしに戻れるよう復旧作業に努めたい」と話した。

■有明海に流れ出た流木やごみ回収へ 9月3日、漁連と行政

九州北部の大雨で、河川から大量の流木やごみが有明海に流れ出たことを受け、福岡有明海漁連(福岡県柳川市)は9月3日、漁船170隻を出し、
国、県、市と共同で回収作業を行う。有明海は日本有数のノリ産地だが、9月上旬に始まる養殖ノリの支柱立て作業に支障が出かねないことから
対応を決めたという。

柳川市によると、筑後川や矢部川などから流出したとみられ、海岸や漁港に打ち上げられたり、海上を漂流したりしている。
例年になく遅い時期の水害で、漁業者から影響を懸念する声が出たという。市によると今のところ、流れ出た油の影響は確認されていない。

■片付け「油の危険 留意を」 専門家 下痢嘔吐、炎症の恐れも

油分が付着した家屋や家財道具を片付ける際、どんな点に留意すればいいのか。油流出事故の専門家でつくるNPO法人油濁防除研究会(東京)の
中田博三専務理事によると、油分は水が引いて乾燥するとアスファルト状になってこびり付くといい、「タワシなどでこすって、飛散した油分が目に入ると
炎症が起きる恐れがある。素手では触らず、きちんとした装備で作業してほしい」と指摘する。

メーカーによると、油分を誤ってのみ込むと下痢や嘔吐(おうと)の可能性があり、蒸気を吸い込むと気分が悪くなることがある。
メーカーは皮膚に付いた場合は大量の水で洗い流し、痛みがあれば医師を受診するよう呼び掛ける。中田専務理事は「不用意に作業すると
けがをする恐れがある。行政に手順を確認し、危険性に十分留意して」と訴えた。