■群れの子どもの多くを出産していたのは、意外にも一握りの母親たちだった

毎年12月、米国西海岸のアニョヌエボ州立公園の海辺には、繁殖のために3000頭以上のキタゾウアザラシが集まってくる。

 それは母アザラシにとっては闘いの時間だ。体重700キロほどのメスは、およそ1カ月にわたり出産と授乳にエネルギーを注ぐ。海に戻って食事を取り、体を回復させるのはその後だ。

 この過酷な生活のため、多くのメスは一生に数頭の子どもしか産むことができない。しかし、キタゾウアザラシの母親7700頭以上を分析した半世紀にわたる研究によって、わかったことがある。それは、一部の長寿の「スゴ母」たちが、群れの中のかなりの子どもを産んでいたということだ。なかには、23年で17頭の子どもを育てた母親もいた。研究成果が、学術誌「Canadian Journal of Zoology」に9月17日付で発表された。

 スゴ母たちが出産を始める年齢は、平均的に出産を開始する4歳よりも少し高い。そのぶん体も大きく健康なため、子どもたちも丈夫に育つ確率が高くなる。

「驚きでした。しかし、群れの将来を決めるのは、この母親たちなのです」と、論文の著者で米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の生態学者であるバーニー・ルブーフ氏は語る。

 1900年代初頭の時点で、キタゾウアザラシは乱獲によって絶滅寸前まで追いこまれた。群れの構成を知ることができれば、個体数回復のカギも明らかになるかもしれない。

■若くして死を迎えるスピード人生

 調査の中でルブーフ氏らは、アニョヌエボで見つかるメスのほとんどが生後数年と若いことに気付いた。つまり、こうした若いメスたちが、群れの子どもたちを産んでいるのだろうと、科学者らは考えていた。しかし、データはまったく違う結果を示していた。

 繁殖年齢に達する子どもの数を考慮に入れて計算したところ、10頭以上の子どもを産むメスはわずか6%に過ぎないことがわかった。しかし、その6%のメスが、群れの子どもの約55%を産んでいた。さらに、メス全体の1%に満たない母親たちは、死ぬまでに最大20頭の子どもを産んでいた。

 ルブーフ氏は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の新任教授だった1967年当時から、アニョヌエボの営巣地に注目してきた。

「あの景色を見て衝撃を受けました。キャンパスに戻る途中で、早々と研究助成の申請書を書いたほどです」。そう語るルブーフ氏は、ゾウアザラシの一生を初めて解明した研究者の一人だ。個々のアザラシを追跡するため、文字と数字を書き込んだ色付きのプラスチック製タグも開発した。このタグは、後ろ足の水かきに安全に取りつけることができた。

 研究は長期にわたったが、初期データですでにいくつかの仮説が実証された。メスは、繁殖可能になる4歳を迎えると、それから死ぬまでの間、ほぼ1年に1頭の子どもを産む。4歳未満で母親になるアザラシもいるが、その場合、自分の成長に使うべきエネルギーを妊娠のために使うことになる。結果として、子どもは体が小さくなり、幼い母親のほうも体重が軽く、若くして死ぬ可能性が高い。

■75%の子アザラシが若くして死ぬ

 子どもの死亡率も同じく高い。捕食者に襲われたり、飢えや育児放棄などが原因で、75%の子アザラシが繁殖年齢に達する前に死んだことが今回の研究でわかっている。カナダ、ニューファンドランドメモリアル大学の海洋生物学博士課程に所属するエレナ・サロニ氏によると、近縁種であるミナミゾウアザラシと比べると、キタゾウアザラシの死亡率は極端に高い。なお、サロニ氏は両方のアザラシについて研究しているが、ルブーフ氏らの研究には関与していない。

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