バラエティ番組では、罰ゲームとして大量のわさび入りの食べ物を食べさせられる場面をよく見るが、イスラエルでは60歳の女性がアボカドと間違えて、わさびを食べたせいで、「たこつぼ型心筋症」を発症する事件があった。失恋症候群とも呼ばれる病気で、重いストレスによって引き起こされる心臓病だ。

 英国の医学誌『ブリティッシュメディカル・ジャーナル(BMJ)』に今月20日に掲載された症例報告によると、イスラエル南部ベエルシェバに住むこの女性は、親族の結婚式披露宴に参加していた際、大好きなアボカドのディップと勘違いして、大量のわさびをパクッ。その直後に地獄が訪れた。

■胸に強い圧迫感が

「スプーン一杯の緑色のクリームを口にした途端、胸をドーンと締めつけられるような痛みが上半身に広がりました。でもおめでたい席です。食べたものを吐き出すわけにはいきませんでした」

 額から脂汗を流しながら、何とか口の中のものを水と一緒に飲み下した女性は、宴席を後にせず、披露宴に参加を続けた。そうこうしているうちに、胸の痛みはおさまったが、翌日になって再び、胸に強い圧迫感を感じて、病院を訪れた。

 ソロカ大学病院医療センターで検査を行った結果、アロナ・フィンケル-オロン(Alona Finkel-Olon)医師は、心臓から血液を全身に送り出すポンプとしての役割を果たす左心室の収縮機能が一時的に低下する「たこつぼ型心筋症」だと診断を下した。

 奇妙な病名だが、英語でも「Tako-tsubo cardiomyopathy」と書かれ、一般的には「失恋症候群(ブロークンハート・シンドローム)」と呼ばれる。これは冠動脈の血流には異常がないのに、左心室のレントゲン写真が、タコ漁で使う「たこつぼ」のような形を連想させることからこの名前がついた。
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■新潟中越地震後に多発

平均年齢60歳代の女性に多くみられ、発症前に家族の死や失業などといった精神的なストレスを抱えているケースが多い。1990年に日本国内で初めて報告されており、2004年10月の新潟県中越地震のあとに、被災者の発症が増えたと言われている。

 心理的ストレスが関係していると指摘されているが、はっきりした原因は不明だ。そのため特定の治療法はないが、左心室の収縮異常は2週間から数カ月で次第に回復する。ただし心臓の動きが悪いと、経過観察中に心不全や不整脈を合併することもあるため、対症療法は必要だ。

 イスラエルの女性の場合、血圧を下げる薬と交感神経の働きに作用する薬を投与したところ、1カ月後には心臓の数値が正常に戻ったという。担当医は「わさびは抗酸化作用もありますし、一般的な量であれば、健康被害を及ぼす心配はないんですけどね」と述べたうえで、「我々が知る限り、これはわさびが引き起こした世界初のたこつぼ型心筋症のケースです」と語っている。

https://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/3/1/31310.html