■ギリシャやローマ以前の4000年前のドイツ、地位は父系が継承

 ヨーロッパで社会的不平等が始まったのは、青銅器時代とされている。贅沢品とともに埋葬された有力者の墓がこの時代に現れるからだ。

 集団の中で「持てる者」と「持たざる者」に分かれていったと想像するのは簡単だ。だが、このほど現在のドイツ南部にある古代の墓を調べた研究により、個々の世帯の中においても、豊かさに格差があったことが明らかになった。つまり、豊かな者と貧しい者が一つ屋根の下で暮らしていたのだ。論文は10月11日付けの学術誌「サイエンス」に発表された。

 研究チームが注目したのは、バイエルン州のレヒ渓谷にある先史時代の集団墓地だ。4000年ほど前、この谷には農場が広がっており、それぞれの世帯は数棟の住居と倉庫、そして小さな墓地をもっていた。

 研究では、新石器時代(4750年前)から青銅器時代中期(3300年前)までの墓を100以上調査し、古代人のDNAデータを用いて、各世帯の家系図を再現した。また、骨格の同位体分析からは、それぞれの人がどこで育ち、一生の間にどのくらい旅をしたかが明らかになった。そして、死者の副葬品を生前の豊かさの指標とした。

 米ハーバード大学医学部の遺伝学者で論文の共著者であるアリッサ・ミトニク氏は、分析の結果、いくつかの興味深いパターンが見られると言う。

 個々の農場の墓地は、中心的な1つの家系によって、4〜5世代にわたって占められているものが多かった。その家族のメンバーは隣り合うように埋葬され、装飾品や武器など、豊かさを示す副葬品の数も多かった。農場は男系を通じて継承されていたらしく、同じ墓地に埋葬された遺体の間に認められた親子関係は両親と息子だけだった。
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/101500590/ph_thumb.jpg


■女性の60パーセントは非地元出身

 女性の約60パーセントは地元の出身ではなかった。彼女たちは他のどの人とも血のつながりがなく、同位体分析の結果は、さまざまな地域、ときには数百kmも離れた地域から来ていることを示唆していた。こうした「非地元出身者」の女性たちは、地元出身の地位の高い女性たちと同じようなよい副葬品とともに葬られていた。

「彼女たちの身元や、コミュニティー内での役割については、まだわかりません」とミトニク氏は言う。「遠方の出身で、婚姻によって家族に迎え入れられた、身分の高い女性たちなのかもしれません」

 ミトニク氏はその根拠として、中心的な家族の成人した娘の遺体が全く見つからなかったことを挙げる。これは、農場で育った女性たちが、同じように遠方で結婚するためにコミュニティーを出ていったことを示唆している。そのパターンは、ミトニク氏らが2017年に発表した論文の知見とよく一致している。

 一方、豪華な副葬品なしに葬られた人々は、中心的な家族と血のつながらない地元出身者が多かった。

「こうした人々は使用人か、もしかしたら奴隷ですらあったかもしれません」とミトニク氏はみる。「先史時代における、複雑な社会構造をもつ世帯の姿がはじめて垣間見えました。私たちは、以前は見えなかった種類の社会的不平等を見ているのです」と言う。研究チームは、これらの世帯内の社会構造は、1500年後の古代ギリシャやローマの、家庭内に使用人や奴隷がいた世帯と似ているのではないかと想像している。

続きはソースで

ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/101500590/