台風19号に際し、東京二十三区東部の江東五区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)が、最大二百五十万人を対象とした避難計画を初めて発動させることを検討したものの、見送っていたことが分かった。計画では検討開始の段階で公表するはずだったが、パニックを恐れ公表せず。もとから課題は多かったが、この計画、実効性はあるのか。(稲垣太郎)

◆電話で共同検討したが、基準に満たず発令見送り

 江戸川区広報課の岡田治夫主査によると十一日午前十時半ごろ、気象庁から、荒川流域(岩淵地点上流域)での三日間積算流域平均雨量が三〇〇ミリから四〇〇ミリになる予報があると連絡があったことから同日午後二時半、五区の担当者が電話で共同検討を開始した。

 ただ、計画では、住民に五区の外へ避難を呼び掛ける「自主的広域避難情報」を発令するのは、「三日間で五〇〇ミリ」という予報が出た場合。このため、発令は見送られたという。

◆パニック恐れ、計画守らず非公表

 一方、五区は共同での検討を始めた場合、検討開始自体を発表することで合意していたが、これも見送られた。江戸川区防災危機管理課の本多吉成統括課長は「すでにJRなどで翌十二日正午からの計画運休が分かっており、二十四時間を切っていた。発表すると不安を感じた多くの住民が短時間に駅に殺到したり、車で避難しようとして大渋滞が起こり、車に乗ったまま被災する危険が予想されたため発表しないことにした」と説明する。

 計画では、台風接近までの時間と雨量を基準に、避難を求める度合いを強めた発令をすることになっている。十二日午前七時十五分ごろには同雨量が五〇〇ミリになる可能性があると気象庁から連絡があったが、「自主的―」より一段階強い「広域避難勧告」を発令する基準は同雨量六〇〇ミリだったため、これも発令を見送り、結局、各区で対応することになったという。

◆自力で避難先確保が前提の計画、課題山積

 そもそも計画は、近年多発する大雨災害に備えて、海抜ゼロメートル地帯の広がる江東五区が、協議会をつくって練ってきたもの。昨年八月に「江東五区大規模水害広域避難計画」を策定した。荒川や江戸川が同時に氾濫したなどの場合、ほとんどの地域が浸水し、人口の九割以上に当たる二百五十万人が被害に遭い、二週間以上水が引かないとして、五区から出て、親戚、知人宅や宿泊施設、勤め先など各自で避難先を確保するよう求めた。

 ただ、五区外の避難所の確保については国や都などで協議している段階で、自力で避難先を確保できない人や、独居の高齢者など動けない人たちをどうするのかなど多くの課題が当初から指摘されていた。今回のように、検討開始さえ公表できないなら、そもそも本当に避難を発令できるのか疑問だ。

◆専門家「想定超える災害、基準柔軟に」「非公表は疑心暗鬼生む」

 今回の対応について、防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏は「最近、千葉県であったように、半日で一カ月分の雨が降るなど、災害が想定を超えるようになっている。江東五区が発令の判断基準に使う三日間積算流域平均雨量の予測だけでは対応できなくなってきているのが実態だ。現状や将来の災害に対応できるよう、柔軟に基準を変えたり、増やしたりする必要がある」と指摘する。

 さらに検討開始を発表すると決めていたのに、発表しなかったことについては「発表するべき危機を発表せず、隠されていた危機を知って人々がパニックになることがある。検討の結果、自主的広域避難情報の発令には至らなかったが、検討を始めたと正確に発表すべきだった。発表しないと今後、何か隠しているのではないかと住民が疑心暗鬼にもなる」と話した。

(2019年10月30日東京新聞朝刊「特報面」に掲載)

2019年10月31日 11時51分 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019103190115126.html
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2019103199115126.jpg

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