武蔵小杉タワマン住民 「風評被害が収まるまで売却もできない」
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2019年11月5日 16:00


「住みたい街」ランキング上位の常連、武蔵小杉(神奈川・川崎市)の台風被害は“街全体の評価”を一変させた。

 街のシンボルであるタワーマンションの浸水被害は「災害に弱い街」を印象付け、住民は長期間にわたって不便を強いられている。風評による資産価値の下落を危惧する声もある。

 水害といえば、過去には東日本大震災で千葉県の浦安市も大きな被害を受けた。もともと海だった場所を埋め立てて造成した土地が、激しい揺れによって液状化現象に見舞われた。そのため、浦安市の一部では、地価が一時約40%も下落するなど、資産価値が大幅に失われた。

 不動産鑑定士の藤田勝寛氏によれば、武蔵小杉では大幅な資産価値の下落は発生していないが、被害のなかった他のタワーマンションに暮らす住民からは懸念の声も上がった。

「けっこう頑張ってローンを組みましたが、他人事ではない。風評被害が収まらなければ売却もままならない。うちには小さい子供もいるし、ローンが半分以上残っている。不安は募るばかりです」(40代男性)

 今回の被災で、30分以上かけて階段を上がっていたという70代男性は、こうこぼした。

「高層階の眺めはすごくて気持いいんだけどね。でも、階段はさすがにきつかったなあ。家内は膝の状態があまり良くないし、少し落ち着いたら部屋を貸し出して、同じ市内で戸建てを借りようかとも考えているけどね。管理組合は『風評被害を防ぎたいので、マスコミに話はしないでほしい』と言うけど、実際、電気も水道もやられたわけだしね」


一方、古くから武蔵小杉に住み、定年を機にタワマンに移り住んだ60代男性は複雑な心境を口にした。

「街に人が増えるのは歓迎なんですよ。私たちがずっといる場所が『住みたい街ランキング』に選ばれるのも誇らしいですからね。

 ただ、タワーマンション住民にはエレベーターで一緒になっても挨拶すらしない人が多いし、賃貸の人は総会にもほとんど参加しない。華やかなイメージと裏腹に人間関係が希薄になっているのは寂しい限りです」

 今回の騒動、人工的に造られた“タワマンの街”で新旧住民の新たな関係を築くきっかけになるだろうか。

※週刊ポスト2019年11月8・15日号