育児休業の取得後に正社員から契約社員になったのは、「マタニティーハラスメント」にあたるとして、原告女性(38)が勤務先に慰謝料などを求めた訴訟の控訴審判決があり、東京高裁は一審の判決を覆し、逆転敗訴を言い渡した。マタハラには相当せず、勤務先に違法性はない、と断じた裁判長は女性の請求の大半を棄却し、衝撃が走った。一審で勝訴したマタハラ訴訟の判決はなぜ、大きく覆ったのか?。その舞台裏を追う。

 東京高等裁判所の第809号法廷――。

 2度の延期の末、約4カ月半も遅れて判決が言い渡された11月28日、法廷には何人もの裁判所職員が配置され、物々しい雰囲気に包まれた。女性の応援者が大半を占め満席状態となった傍聴席に筆者も座った。裁判官が入室すると法廷は静まり返り、皆がじっと阿部潤裁判長を見つめた。

 当初、判決は7月に出る予定だった。4月に口頭弁論が終結したあと、裁判所では2度の和解の場が設けられ、金銭解決が図られようとしていた。原告女性が訴えたのは、語学スクール運営会社のジャパンビジネスラボ(JBL)社。JBL社は「もし和解すれば、してもいないマタハラを認めてしまうことになる。第三者に口外禁止する誓約書を取り交わすことになり、マタハラ企業、ブラック企業の汚名を晴らすことはできなくなる。たとえ和解金額が1万円だったとしても応じることはできない」と和解を拒否、判決を待つことを選んだ。

 女性側の訴状によれば、女性が正社員に復帰できず、契約社員の契約も更新されなかったことをマタハラだとして、正社員に戻れるはずだと争った。主な争点は、(1)女性の正社員としての地位(雇用)があるのか、(2)女性は契約社員としての雇用が続くのか、(3)双方の損害賠償請求が認められるのか、という3点。

 一審判決では、女性が育児休業を取得後に契約社員に変更したのは自由意思で違法性はないとされた。一方、契約社員としての雇い止めについては「合理的な理由を欠く」と無効となった。給与の約370万円と弁護士費用を含む慰謝料110万円の支払いが会社側に命じられ、敗訴したJBL社は控訴していた。 

阿部裁判長が二審の判決主文を読み上げると、法廷はどよめいた。今回の判決でも正社員の地位の請求は棄却された。女性を正社員にする努力をJBL社が怠ったとした「損害金2283万4000円と年5分の割合」の支払い請求も棄却。一審では無効とされた契約社員としての雇い止めが認められた。

 損害賠償請求は、女性が行った提訴の記者会見や報道機関に話した内容が事実と異なりJBL社への名誉毀損に当たるとして、女性に約55万円の支払いを命じた。会社側には、女性に対するプライバシーの侵害があったと約5万円の支払いを命じたが、会社側が逆転勝訴。マタハラはなかったという判断が下された。

 裁判官が入室する前、紺色のスリーピースに身を包んだ女性は隣に座る弁護士と時折笑みを浮かべていたが、判決が言い渡された瞬間、表情は硬くなった。次に判決理由が読み上げられると女性は目を大きく見張り、何度も裁判長のほうに顔を向けた。JBL社の杉村貴子社長は、着席してから閉廷するまでずっと目をつぶって裁判長の言葉に耳を傾けていた。

 社員数20人程度のJBL社は1年前、一審判決で敗訴しマタハラ企業の烙印を押されたことで、民間の任意団体から「ブラック企業大賞」にもノミネートされた。マタハラ問題を含め労働問題を15年にわたってライフワークとする筆者は、この裁判に関心を寄せ、一審と二審の裁判資料の全てを閲覧。裁判と並行して行われた労働委員会も傍聴した。逆転判決が出たこの裁判は、そもそも、なぜ起こったのか。話は6年前に遡る。

 原告の女性(38)は、2008年にJBL社に正社員として入社。社会人向けの語学スクール部門のコーチ職として育児休業を取得する第1号となった。コーチは平日15時頃に出勤して22時頃まで働き、土日の講座も多い。結婚・出産を控えた女性社員が8割を占めるなか、辞めずに子育てと両立できるよう、社員の話し合いをもとに就業規則が変更された。

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2019.12.4 18:12