茨城県ゆかりのUFO(未確認飛行物体)伝説が世界に進出した。江戸時代の1803(享和3)年、常陸国の海岸に円盤状の奇妙な物体と1人の女性が漂着したという「うつろ舟(ぶね)奇談」だ。今年、英文の研究本が出版され、インターネットや海外メディアで伝説が取り上げられる機会が増えた。史料に描かれた謎の「舟」や、国籍不明で魅惑的な女性の姿は注目度が高く、海外のUFO伝説と肩を並べる日が来るかもしれない。(報道部・三次豪)

■大反響

「現実性が高く、非常に価値ある伝説。世界中の人に知ってもらいたい」

うつろ舟奇談研究の第一人者で岐阜大工学部の田中嘉津夫名誉教授は、2009年に加門正一のペンネームで研究本「江戸『うつろ舟』ミステリー」(楽工社)を出版した。今年9月、漂着地に関する考察など近年の研究成果を加えた英語版「THE MYSTERY OF UTSURO-BUNE」を英国の出版社から刊行した。イタリア語とスペイン語での出版も予定している。

海外のウェブページによる紹介が以前から充実していたため、田中氏は英語版の需要を確信していた。予想通り反響は大きく、米国などのメディアから続々と取材依頼が来たという。

16年には、ネットを通じて興味を持ったインドネシア人の現代美術家、ヴェンザ・クリストさんが、伝説をモチーフにした展覧会を本県で開いた。

■具体性

うつろ舟奇談の研究で大きな前進があったのは14年。田中氏が新史料を解読し、漂着地とみられる具体的な地名「常陸(ひたち)原(はら)舎(しゃ)り濱(はま)」が見つかった。現在の神栖市波崎舎利浜と見られる。長く解明されずにいた謎に近づき、伝説の信ぴょう性が一気に高まった。

田中氏は、伝説中で女性が着る衣服が、漂着地と同じ神栖市内の蚕霊(さんれい)神社と星福(しょうふく)寺に伝わる「金色姫(こんじきひめ)伝説」の金色姫(蚕霊尊)の衣服と酷似していることを指摘。伝説と本県、神栖市の関連度が深まった。

これまでに全国で発見された史料は10を超える。「南総里見八犬伝」の作者で曲亭馬琴の「兎園(とえん)小説」(1825年)や長橋亦(また)次郎の「梅の塵(ちり)」(44年)が絵入りで記載。民俗学の巨人、柳田国男の論文「うつぼ舟の話」(1925年)もある。

■魅力的

「ロズウェルのように、『Sharihama』は世界的に知られるようになる」。田中氏は、UFOが墜落したとして有名な米国の地名を例に断言する。5年前の新史料発見以降、田中氏は何度も神栖市を訪れ、10月も舎利浜周辺を調査した。「UFOでないとしても、何か実際の事件が広がったものだ」と、単なる作り話ではないと推測する。

研究の進展に伴いうつろ舟奇談の史料が展示される機会も増えている。今年、東京と京都を巡回した「ゆるい」雰囲気の絵を集めた展示「日本の素朴絵」では、日本画の巨匠、伊藤若冲や尾形光琳の絵とともに、うつろ舟奇談がカラーの絵入りで記された「漂流記集」(江戸後期)が展示された。

「漂流記集」を所蔵する愛知県の西尾市岩瀬文庫は、海外からの来場者が増えているという。同文庫の林知左子学芸員は「アメリカなどのお客が『これはスペースシップ(宇宙船)なのか』などと質問し、楽しんでくれる。ロズウェル事件のはるか昔からある伝説で、UFOに似た舟の形や美女も魅力的。ミステリー好きな外国人はぐっとくるのでは」と反応を語る。

★うつろ舟奇談
享和3(1803)年、常陸国の海岸に「うつろ舟」が漂着し、舟の中に美しい女性が1人乗っていたという伝説。発見史料は10を超え、窓が2〜3個ついた丼型のUFOに似た舟や大事そうに箱を抱えた女性、研究者が「宇宙文字」と呼ぶ謎の記号など、内容に共通点がある。うつろの字は「虚」や「空」が当てられている。


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