中華ナチスへの暴露攻撃

 悪俗ウィキとその関連カルチャーに連なるウェブコミュニティは、中国語では「悪俗圏」と呼ばれている。いずれも中国国内の話題を「悪ふざけ(悪俗)」的な表現で記述しているのだが、そこには中国の現体制への揶揄や批判が大量に含まれていた。

 特にシナウィキは「反中国共産党」に特化しており、「支納」というサイト名も戦前の日本による中国の呼称である「支那」と、ナチスの中国語訳「納粹党」をかけ合わせたものだ(中国共産党=中華ナチス、というわけである)。さらに在米華人が運営する「レッドチャイナ」や、すでに閉鎖された「蜘蛛」など似たような活動をおこなうサイトも複数存在する。

「悪俗圏」の最も危ない特徴は、中国共産党幹部の顔写真や身分証番号・住所・電話番号・メールアドレスや微信(WeChat)番号といった個人情報をネット上で大量に暴露する形で体制への嫌がらせをおこなっていることだ。

 これらは一流大学の共産主義青年団書記や当局のネット管理部門の責任者といった中級レベルの幹部まで対象になっており、数千人以上の規模におよぶと見られる。なかでも凄まじいのは、なんと習近平や娘の習明沢の個人情報まで公開されていることである。

習近平の娘にイタズラ電話が殺到

 例えば2019年7月に悪俗圏の各サイトで公開された習明沢の個人情報の一部は下記の通りだ(一部伏せ字)。

       ※個人情報なので省略

 暴露時点で習明沢が使用していた変名は「楚晨」で、彼女はながらくアメリカに在住。中国の体制上層部の人間の例に漏れず、彼女は6つのパスポートを使い分けているとされる。
「これで、習明沢にイタズラ電話を掛けたり嫌がらせメールを送るやつが続出したらしい」

 近日、私が取材した悪俗圏の関係者である20代の中国人Aはそう話す。現在、中国国内でサイトを閲覧しただけの10代の少年少女まで続々と逮捕されているのは、習近平ファミリーを狙った悪俗圏の関係者に対する当局の激怒を示すものだろう。逆説的に言えば、上記の情報が真実に近いからこそ当局が怒っている可能性もあるわけだ。

 従来、悪俗圏サイトはアングラ好きの若者や中高生が面白がってアクセスしており、例えばシナウィキの場合は2018年12月のサイト開設から2019年10月17日の壊滅までにログイン会員が3000人、1日のPV数が4万件という規模だった。中国のネットユーザーの間では「翻牆必看(中国のネット規制を突破して海外サイトを見る際には最初に見るべき場所)」とすら呼ばれていたという。

 当初、悪俗圏サイトの出発点は、中国の2ちゃんねらー的な人たちの「悪ふざけ」だったとはいえ、もはや機密情報暴露サイトの『ウィキリークス』に近い政治的意味を持つ存在に成長してしまったと言ってもいい。

全文はソースで
2019.12.18(水)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58597