<マナーの悪い観光客と言えば中国人、というのが通説だが、実際は欧米人だってひどい。なぜ日本では外国人観光客全般のマナーが悪くなりがちなのか>

日本ではよく「お客様は神様」と言われるが、本当は「神様」なんかじゃない。新宿ゴールデン街のママたちから愚痴を聞いて、そんな思いが頭によぎった。


ゴールデン街には今、欧米からの観光客が大挙して訪れている。わずか3〜4.5坪の小さな飲食店が密集するゴールデン街では「はしご」が当たり前。店に入り、チャージも払って何杯か飲んだら次の店に移る。そういう楽しみ方が一般的だ。彼らがそれを知らないのは仕方がないとしても、チャージについて説明すると文句を言ったり、同じ店にずっといて大騒ぎしたりするらしい。私も目撃したことがある。

品川の駅前ではこんな光景も見掛けた。高輪口を出ると、歩道橋の近くに広いスペースがあるが、そこで白昼堂々、欧米人の観光客たちが酒盛りをしているのだ。すぐ近くに交番があるのに、警察官もその迷惑行為を注意しない。路上で繰り広げられる安上がりなパーティーと、散乱したビールの空き缶を見たのは1度や2度ではない。

観光客のマナーが悪いのは今に始まったことではないし、日本に限った話でもないだろう。ただ、これまで日本ではマナーの悪い観光客と言えば中国人、というのが通説だった。そんな報道が繰り返されてきたし(編集者によると、本誌でも2007年に中国人観光客の特集を組んだらしい)、「銀座の路上で中国人が子供に小便をさせていた!」と、ワイドショーでこぞって報じられたりもした。なぜ「マナーが悪い欧米人」は話題にならないのだろう。

何も「中国人は悪くない」と言いたいわけじゃない。文化の異なる国からやって来るのだから、日本の習慣に戸惑う人がいるのは当たり前。問題は、日本では外国人観光客全般のマナーが悪くなりがちで、それはなぜかという点だ。

私はその原因は日本の「おもてなし」にあると思っている。迷惑だと思っても「神様」だから注意できない。それが彼らを勘違いさせ、図に乗らせているんじゃないか。例えばアメリカでは路上飲酒が禁止されている州が多い。そこで、「日本ではOKだってさ!」とハメを外して飲んでしまう──だからと言って空き缶を散乱させていい理由にはならないはず。

日本に来ると「お客様は神様」で、デパートに入れば深々とお辞儀をされ、買い物をすれば商品は丁重にラッピングされる。プレゼントだと言えば、手渡し用に奇麗な紙袋を付けてくれることさえあり、そんな経験をしたことのない外国人は単純に感激してしまう。「日本ってスゴイ!」

さらには、東京には消費税を免除される市中免税店がたくさんあり、「歓迎されている感」はより一層高まる。ユニクロでも免税、ダイソーでも免税。外国人に優し過ぎるよ! ここまで免税カウンターだらけの国は珍しいだろう。

私に言わせれば、日本のおもてなしは度が過ぎる。誰もそこまでのサービスは求めていないし、そんなのは本物のおもてなしじゃない。例えば日本の田舎町で道に迷ったとき、言葉も分からない地元の人が案内してくれたり、お茶を出してくれたりする。困った人に親切にすることこそが本物のおもてなしではないか。

観光客が増え過ぎて地元の人の生活に支障を来す「観光公害」が取り沙汰される今の日本。このまま「神様」扱いしていては、いつか逆に外国人全体への反発が強まりかねない。双方が気持ちよく過ごすためには、ある程度の規制を設けてもいいのでは?

「ぼったくりを推奨するのか」と怒られそうだが、個人的には、飲食店で日本人向けと外国人向けの料金が違っても構わないとさえ思う。その分、「本物のおもてなし」で外国人を感動させればいいのだ。

2019年12月20日(金)11時20分
ニューズウィーク
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