岡山市内の運送会社に勤める30代後半のドライバーが9月、「家のローンが払えないと退職した」と年令も近い40代の社長。「もっと稼げる仕事か、アルバイトを兼業できる職種に変わるのかと思ったが、別の会社でトラックドライバーを続けているとわかった」と呆れる。国が描く時短は、固定した職場で一日を過ごすわけではないドライバーに馴染まないとの声が根強い。いま風にいえば「ブラック」だが、少し前なら「ごく普通」のトラック事業者の元に、稼ごうとするドライバーらが流れ込んでいるとの見方もある。

 「トラック運送の過労死認定がワーストというが、無茶な走りをしていた昭和時代の我々はピンピンとしている」と、県北東部で機械部品を扱う60代後半の社長。起業から30年が過ぎたが、保有する10台ほどのトラックのうち予備車も含めて数台が止まった状態。「経営は苦しいが、ドライバーがいないからどうしようもない。しゃんとしたのを10人そろえることができれば、この商売はまだまだ儲かる」と話す一方で、「働くなという法律が、カネが必要なドライバーをトラック事業から遠ざける」と吐き捨てる。

 同社に過日、適正化実施機関の巡回指導があり、「社長さん、点呼は大丈夫?」「1年分ではなく、それ以前の記録も出して」と指摘され、「倉庫にあるから探せばいい」と返した。「それは困る」という指導員に社長は、無事故表彰で埋め尽くした事務所の壁を指した。「指導されなくても無事故がワシらの仕事。休みたい、もっと働きたいという選択肢が可能になるように働き掛けるのがオタクらの仕事ではないのか」と、トラック協会職員の顔も持つ指導員に食って掛かった。

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 「目が離せない検品作業などと違い、実働という観点からすればトラックドライバーの時間は劣悪とされるほどではない。一律の時短を進める前に職種ごとの時間定義を組み直さないと、ドライバーで生計を立てようという人間はいなくなる」と話すのは、生活用品や食品を運ぶ70代半ばの社長。続発する高齢の一般ドライバーによる重大事故を、トラック運転者の高齢化と結び付けて危険視するような報道にも苦言を呈してきた。

 同社は昨年、ドライバーの定年を廃止した。「車、それに自分の体もチェックしているか不明な一般ドライバーとは異なり、トラックの高齢ドライバーは年2回の健康診断や、義務化された運転適齢診断がある。管理されている違いは明らかだ」。現在は65歳を過ぎれば1年ごと、70歳で半年ごとに本人と相談し、「給料も落とさない」と社長。「いったん65歳で退職した後、人材派遣に登録させて雇い直す知人もいる」と教えてくれた。

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 自己資本率から優良経営が明らかな県西部の運送会社。これまで大きな事故もなく、国が進める改革に合わせて取り組むなかで「長距離をやめて数人の有能なドライバーが退職した」と、60代後半の社長は残念がる。その矢先、労働基準監督署の担当者がふらりとやって来た。

 「給料が多いドライバーの勤務を確認するとかで、関係書類の提出を求められた」。時間管理は徹底していたが、それでもいくつか不適切と指摘されたことで「どう悪く、どう直すか教えてほしい」と尋ねたが返事があるわけもなく、「運輸支局に聞いても同じだった」という。「時短は、それだけで給料アップと同じ。ドライバーも納得して働いているのに一体、誰のために何がしたい改革なのかわからない」と憤りを隠さない。

2019年12月20日
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