巨人インテルに挑み続けてきたCPUメーカー、米AMDの存在感が増している。2019年から2020年にかけて、主要パソコンのCPUとして返り咲いた。なぜAMDは復活できたのか。AMDの技術面の強みから米インテルの対抗策まで、その理由を解説する。

 AMD復活の背後にはインテルの“自責点”がある。1つは、単位面積当たりのトランジスタ数を増やす「微細化」でつまずいたこと。性能を上げる原資となるトランジスタ数とその動作周波数を思うように増やせなかった。もう1つは、CPUのマイクロアーキテクチャーの改良が遅れたことだ。

 まず微細化から説明しよう。微細化とは、配線幅や回路幅の狭さを示す、半導体の「製造プロセスルール」の更新が中心だ。

 インテルは当初、2020年現在で主力の14ナノメートル(以下nm)プロセスによる量産を2014年中に始める予定だった。しかし2014年は、モバイル向けに「Core m」というTDP 4.5Wの製品を少量出荷できた程度にとどまった。

 2015年に持ち越した14nm品の本格量産で投入した第5世代Coreプロセッサー(開発コード名:Broadwell)は、製造プロセスが22nmの前世代(同Haswell)より消費電力は下がったものの、最高動作周波数まで下がってしまう結果となった。同じ14nmで高速動作を狙った第6世代Coreプロセッサー(開発コード名:Skylake)がBroadwell投入の2カ月後に投入され、結局Broadwellは影が薄いまま市場から消えた。Skylakeも性能向上と消費電力減を両立させたわけではなく、消費電力は22nm世代より増えている。

■製品改良のペースを落とす

 製造プロセスルール微細化のつまずきは、インテルが長らく製品開発の基本戦略として掲げてきた「Tick-Tock」と呼ぶポリシーの変更を強いた。Tickは微細化、Tockはアーキテクチャーの改良で、これを毎年のように繰り返すことで設計を段階的に進化させるというものだった。

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 だが順調だったのは2013年あたりまでで、インテルは2016年にTick-Tock戦略の見直しを表明する。

 2016年に10nmプロセスが量産に入れれば新たなTickが投入できるはずだったが、10nmが初めて量産に入ったのは2018年のことだ。しかもこの2018年の10nmは成功したとは言いがたく、2019年の10nm+プロセスを利用したIceLakeでさえいろいろ問題があるレベルといえる。高性能化は回路の大規模化を招くのが一般的。CPUの性能向上の元手となるトランジスタが増えない以上、マイクロアーキテクチャーの大改造は困難だ。

 そうなると10nm世代を待たずにできる小改造を繰り返すしかない。こうして2017年に投入されたのが、Skylakeにわずかな改良を加えるとともに、若干の動作周波数向上をもたらす14nm+プロセスを組み合わせた第7世代Coreプロセッサー(開発コード名:Kaby Lake)である。

 対するAMDは2017年、ついに新アーキテクチャー「Zen」コアベースの「Ryzen」を投入してきた。Ryzenはハイエンド品で8コア/16スレッドの構成になっており、4コア/8スレッドのKaby Lakeでは太刀打ちできなかった。米インテルは2017年10月に、14nm++プロセスを利用したコア数が6の第8世代Coreプロセッサー(開発コード名:Coffee Lake)の投入で対抗する。

 翌2018年、インテルは10nmプロセスで製造された第9世代Coreプロセッサー(開発コード名:Cannon Lake)が登場する。ところが実際にこのプロセッサーを搭載したPCを組み立ててみると、14nmプロセスよりも最高動作周波数が下がる上に、GPUを無効化せざるを得なかった。インテルはGPU無効化の理由を明かしていないが、製造の歩留まりが悪く欠陥品が多かったか、消費電力が急増してしまうためか、あるいはその両方だろう。

 結果、当初予定の4コア/8スレッドのCPU+GPUというダイ構成は、2コア/4スレッドでGPU無しという形になった。「Core i3-8121U」として発表はしたものの、これを搭載したインテルの小型PC「NUC(NUC8I3CYSM)」は、GPUとしてAMDのRadeon 540を搭載するという、インテルにとっては屈辱的ともいえる構成で登場した。(続きはソース)

2020.02.19
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