“コロナショック”で窮地に立たされている業界はたくさんあるが、もっとも甚大な被害が心配されるのが観光業だ。中でもホテルは予約客のキャンセル等がすでに経営を直撃しているものの、意外にも影響が少ないホテルもあるという。その違いとは何か──。
ホテル評論家の瀧澤信秋氏がレポートする。

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新型コロナウイルスによる感染拡大防止と自粛ムードの広がりは、宿泊業界に大打撃を与え続けている。予約客の激減で、破産開始決定という旅館のニュースも話題になったばかりだが、特に資本力のない観光地の旅館やホテルの悲鳴は相当だ。

このところ、インバウンド(訪日外国人旅行)頼みで潤ってきたホテルが多いだけに、ゲスト数だけでいえば最高時の80%以上減少というホテルさえある。
従業員の給料が払えないので解雇はやむを得ず、それ以上に「ホテルの存続すら危ぶまれる」と話す観光地のホテル経営者は多い。

都市型ホテルについても影響は甚大だ。人が多く集まるイベントなどについて自粛要請が出たが、宿泊客の減少という中でバンケット(宴会)やウェディングなども収益の柱だったフルサービス型ホテルでは、当然のようにキャンセルが続出している。

安倍晋三首相が3月1日の感染症対策本部会合で、集団感染防止のため“スポーツジムの利用やブッフェ形式の食事を自粛”などを求めたが、ブッフェといえばホテル定番の人気ダイニングだけに、イメージの悪化を懸念するホテル関係者の声もある。

今後の影響や被害、感染拡大の推移は未知数であり、新型コロナウイルスによる宿泊業界への影響についても、具体的な損失額や倒産件数などのデータが出揃うまでは時間を要すると想定されるが、予断を許さない状況であることだけは確かだ。

直近の新聞報道によると、2月26日以降3月末の大都市圏(東京都区部、京都市、大阪市、札幌市、福岡市の5都市)のホテル宿泊プランの3割が値下げしていたことが分かったという(日本経済新聞電子版/3月2日)。
ビジネス需要の落ち込みやイベント自粛の今後の影響も見越しての措置だ。東京オリンピックを控えた時期でもあり、宿泊業界にとっても最悪のタイミングであることは間違いない。

NEWS ポストセブン

そもそも、訪日外国人旅行者の増加は、政府の観光立国推進とリンクしてきた。世界的な旅行ブームという背景の中で、ビザ、LCC(格安航空)など外国人旅行者が日本を訪れやすい条件が揃っていったという側面もある。
具体的な推移を見ると、2013年に訪日外国人旅行者数が初めて1000万人を突破、2016年には2000万人、2018年末には3000万人と激増していった。

そうなると当然、宿泊施設が不足するわけであるが、“目標6000万人”などと沸き立つ観光立国のさらなる推進を好機と捉えた事業者は次々とホテルプロジェクトを立ち上げた。
2014年から2018年の5年間で約600軒のホテルが増加(観光庁統計)したとされるが、この中には異業種から宿泊業への参入も目立った。

増加したホテルの多くが宿泊特化型のホテル、いわゆるビジネスホテルだ。“宿泊に特化”といえば簡易宿所の激増も見逃せない。
簡易宿所とはカプセルホテルやホステルといった業態であるが、上記統計によると約7000軒も増加したという。法令が整備された民泊のインパクトも相当だ。

だが、外国人旅行者が激増したからといって、一朝一夕にホテルは完成しない。筆者はホテルプロジェクトへ参画する機会もあるが、プロジェクトスタートから建設、開業まで2〜3年は要する。
2015、2016年と訪日外国人旅行者の激増に呼応するかのようにホテルプロジェクトも増加したが、実際の開業は2018、2019年になるわけで、その間はホテル需給のミスマッチが起きることになる。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200304-00000009-pseven-bus_all
3/4(水) 7:00配信