新型コロナウイルスの感染拡大により、様々な集会やイベントが中止や延期となり、政府が一斉休校を要請するという事態となっている。しかし、このような流れに反して、依然として都市部では電車もバスも通勤する人で溢れている。

また、多少の熱や咳では仕事は休めず、感染者が発熱後に仕事をしていたという報道も少なくない。イベントを中止にしても学校を休みにしても、仕事への姿勢がこの状態では、社会全体としての感染リスクは高いままである。

なぜ日本ではこれほどまでに仕事を休めないのか。感染拡大に伴って改めて浮き彫りになっているこの日本の「働き方」問題について、研究者として日本で4年間、アメリカとオーストリアで8年間働いてきた経験から考えたい。

「有休を使い切る」は世界では当り前
まず、私が働いてきた日本と欧米の職場での働き方の違いを紹介する。

欧米といっても実際は地域によって言語も文化も大きく異なる。しかし、労働時間が日本より短いという傾向は、私が生活してきたアメリカやオーストリアを含む欧米の多くの地域に共通している。午後5時を回るとほとんどの人が帰宅するし、有給休暇を使い切らない人は非常に稀である。

独立行政法人「労働政策研究・研修機構」がまとめた「国際労働比較データブック2018」によると、週49時間以上の労働(本調査においてこれを長時間労働ラインとしている)を行う就業者の割合は、日本では10年程前から男性が30%、女性が10%前後で推移している。対して欧米各国では平均して、男性が10〜15%、女性が5%前後である。週49時間という基準がどこまで問題を反映しているかは分からないが、少なくともこの基準の範囲でも、日本では欧米のおよそ2倍の人が長時間労働をしており、特に男性は約3人に1人が日常的に長時間労働をしている。

また、有給休暇の取得率の低さも日本は際立っている。エクスペディア・ジャパンが2018年に公表した有給休暇や長期休暇に関する国際比較調査の結果によると、日本の有給休暇取得率は50%しかなく、調査した国の中で最下位であった。対して、90%を超える国は欧米諸国だけでなく韓国やシンガポールなどアジアにも多く見られ、日本のように50%に近いような国は世界でも稀である。

つまり、私が欧米で経験しているしっかり休みを確保する働き方は、世界の中ではむしろ標準的であり、日本の働き方が世界的に特殊なのである。

許し合えない日本社会

私は日本の働き方の特殊さは、主に以下の2点に象徴的に現れていると考えている。

1. 寛容さの欠如
2. 責任の所在の曖昧さ

まず「寛容さの欠如」についてであるが、欧米の多くの地域に比べ日本では、仕事上の不具合を許し合わない傾向にある。

例えば日本では、郵便や宅配便が早く届かない、交通機関含めスケジュール通りにならない、担当者が不在で仕事が遅れる、納期に間に合わないなど、あらゆる不具合を許さず「誰にも迷惑をかけていない状態」へ向かおうとする。この傾向は、不具合に対処するための労力の増加だけでなく、仕事を休むことへの躊躇にもつながっている。

対して欧米では、極端な話でもなく、郵便は遅れ、電車は定刻通りに動かず、担当者も通知なしに休み、期日通りに仕事がなされないことも日常茶飯事だ。その背景には、多少の不便もお互い様という「迷惑を悪としない精神」があると私は感じている。

だから例えば、緊急の要件が目の前にあっても終業時間になれば帰宅するし、逆に緊急時に対応されなくても必要以上に責めたりしないのだ。日本から移動したばかりの時は、このような性質に戸惑いを感じたが、今では周囲に迷惑をかけてはいけないというある種の「呪い」のようなストレスから解放され、自分のペースで穏やかに仕事にも休暇にも向かうことができている。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200314-00071036-gendaibiz-life
3/14(土) 7:01配信