新型コロナウイルス感染拡大に伴い、アジアでも各国が国境管理強化などを進めており、輸出入貿易への影響が広がっている。マレーシアでは外国人入国禁止などにより、シンガポールとの陸上交通網はほぼ遮断。フィリピンのマニラ首都圏封鎖で輸出入に支障が出ているほか、インドシナ半島の陸上越境輸送も止まっているという。港湾は稼働中だが、航空輸送や内陸部分のトラック輸送が寸断され、サプライチェーン(SC)に深刻な影響を及ぼしている。

 マレーシア政府は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、現地時間18日未明から全ての外国人の入国と、マレーシア人の出国を禁止した。

 マレーシア・シンガポール間は毎日、30万人が行き来するが、国境封鎖の影響で18日以降はトラックを含めて通行は全て止まっている。シンガポールで倉庫を運営する日系物流企業にも多くのマレーシア人スタッフが毎日、同国から通勤するが、「帰国すると戻れなくなるので、シンガポールに宿泊先を確保して対応している」(在シンガポールの日系物流企業駐在員)。倉庫運営は通常通りだが、「モノの流れは極端に落ちている」(前出の関係者)という。

 シンガポールに近接するハブ港のタンジュンペラパス港(PTP)と隣接するフリーゾーン(FZ)は、現時点では稼働中となっている。PTPからシンガポールに陸上輸送で保税転送するサービスなどは全て止まっているが、バージなど海上輸送については問題ない模様。

■市内通行に許可証

 フィリピンでは、ドゥテルテ大統領が12日、マニラ首都圏を15日から4月14日まで封鎖すると発表した。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、フィリピン港湾庁(PPA)は15日、マニラ港経由で輸出入される貨物を運搬するトラックがマニラ首都圏を通行する場合、事前に通行許可証を入手することを義務付けた。マニラ港のターミナルオペレーターが発行主体となるが、一部トラック企業が新規制を把握しておらず、混乱も起きているという。

 オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)は、日本発コンテナ貨物のBL(船荷証券)作成をマニラにあるオフショアセンターが行っているが、マニラ首都圏封鎖の前からスタッフが在宅勤務に切り替え。これにより、日本発コンテナ貨物のBL発給業務については問題なく継続しているという。ただ、ONEの日本-フィリピンサービスJPHはマニラ港の前に寄港する釜山港の混雑により、遅延が生じている。

■越境陸送に遅延も

 その他東南アジア諸国でも旅客便減便による航空輸送スペースの逼迫(ひっぱく)のほか、越境陸送などに支障が出ている。

 日系物流企業のベトナム駐在員は「海上輸送や国内物流は問題ないが、中越間輸送やカンボジアとの陸送が動かなくなっている」という。また、中国からの部材供給が滞っており、中国依存度の高い荷主の生産活動が停滞。ベトナムの物流企業団体の調査では、ベトナム物流企業の15%が2020年、5割の減収を予想しているという。

 インドシナ半島の物流中心地であるタイは「従来、自動車販売が低迷し、物流業は厳しい状況だった。ただ、自動車産業は現地調達率が高く(中国依存が高いアジア他国に比べ)影響は少ない」(日系物流大手現地法人社長)という。しかし、消費マインドの落ち込みによる今後の物量低迷は確実だ。また、自動車部品などで活用されているマレーシアとの越境輸送にも遅延など影響が広がる可能性が高い。

 インドネシアは中国との航空便を中心に欠便が続くが、海上・陸上輸送は正常に機能している。ただ、日系製造業が集積するカラワン県で、コロナウイルス感染者が確認された地域からの入国者に対して最長14日間の自主封鎖命令が出されるなど、各地方行政が独自の動きを取っており、「今後の政策措置が企業の生産活動、輸出に深刻な影響を与えそうだ」(日系駐在員)という。

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