浄めの水場で新型コロナウイルスの感染予防策を紹介する動画を撮影するアサディ・ヤスィン代表(右)ら=静岡市駿河区で
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 新型コロナウイルスの感染拡大が、国内のイスラム教徒(ムスリム)の生活にも影響を与えている。県内では静岡市と浜松市の礼拝所(モスク)が、相次いで今月の金曜日の集団礼拝中止を決めた。四月下旬にはラマダン(断食月)も始まり、モスクに集まる機会も増える。信徒たちは今後の行く末を心配している。 (山中正義)

 礼拝だけでなく、教育や情報交換、憩いの場など多様な機能を持ち、ムスリムの生活に欠かせないモスク。「大変なときこそもっと(モスクで)礼拝したい気持ちになる。悲しい」。静岡市駿河区の静岡マスジドを建てた静岡ムスリム協会のアサディ・ヤスィン代表(41)=モロッコ出身=は声を落とした。

 これまで、予防策として手洗いの慣行やマスク着用、礼拝用マットの持参、あいさつ時の握手と抱擁の自粛を口頭と文書で呼び掛けてきた。金曜礼拝の時間も短縮、礼拝を屋外で行うことも考えていた。

 インドネシアやバングラデシュなど信徒の出身地が異なり、言葉の違いから予防策を十分に理解できない人もいると考え、感染予防策を啓発する動画制作も企画。十五日にモスクで、信徒たちが撮影した。映像を見るだけであいさつや手洗い、礼拝時などの正しい予防策を学べる内容で、会員制交流サイト(SNS)で発信している。

 しかし、国内外でモスクの一時的な閉鎖やイベント自粛の動きが広がる中、関係者が話し合い、四月二日までの一時閉鎖を決めた。アサディ代表は「仕方がない、やるしかなかった。ラマダンには開けられるといいが」と語った。

 浜松市南区の宗教法人「モハマディモスク浜松」のモスクも、今月二十〜二十八日の金曜礼拝と土曜日夜の集会を中止する。ファルハド・ウディン代表(54)=バングラデシュ出身=は「中止は今まで一度もないからすごく考えた。でも、万が一何かあったら責められるし、他のモスクがしていることをしない理由はない」と話した。

 一方、富士市の富士マスジドは、特別な対応はしていない。モスク役員のグルバズ・カーンさん(45)=パキスタン出身=は「一日に五回の礼拝で手洗いなどはきちんとしている。心配ない」と話す。集団礼拝の中止やモスクの一時閉鎖は信徒の間でも賛否両論がある。一部からは「行政が言ってくれれば決めやすい」との本音も漏れる。

 国内のモスクに詳しい早稲田大人間科学学術院の店田(たなだ)広文教授(アジア社会論)は「個々のモスクの対応はそれぞれの判断。宗教実践できる範囲で対応している」と話す。行政がモスクなどの宗教施設に介入するのは難しく、「モスク全体をまとめる中央組織がないのが課題。あればその判断に従い、対応はスムーズになる」と指摘する。

東京新聞 2020年3月18日
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