新型コロナウイルス感染症の治療のため、米食品医薬品局(FDA)は1日、候補薬の一つ「レムデシビル」の緊急使用を許可した。コロナ禍終息への鍵となる治療薬をめぐっては、国産の「アビガン」などさまざまな候補薬が浮上、それぞれ一定の効果が報告されている半面、副作用などの問題も残る。現時点で最有力の治療薬は何か。

 トランプ米大統領は1日、レムデシビルを開発した米製薬会社ギリアド・サイエンシズの幹部と面会し、「重要な治療で、期待が持てる」と述べた。同社は1日、10月までに少なくとも50万人を治療できる量の製造を目指すと発表した。

 レムデシビルはエボラ出血熱の治療目的で開発。ウイルスが増殖するのを抑える機能があるとされ、静脈注射で投与する。米国立衛生研究所(NIH)が発表した1000人を対象とした臨床試験結果では、投与された人の回復にかかった日数は11日ほどで、投与されなかった人が要した2週間よりも短かった。死亡した人の割合を比較しても低く抑えられた。

 一方、中国が英医学誌に発表した約240人を対象とした試験の結果では有効性が確認できなかったとしている。

 日本では、政府が企業からの申請があれば審査の手続きを簡略化する「特例承認」の国内第1号となる可能性がある。

 近畿大学医学部の宮澤正顯教授(ウイルス感染免疫学)は「レムデシビルは5月には利用できるのではないか。ただ、肝機能などに重い副作用がみられたという報告もあり、治療薬の選択肢を増やす必要がある」と指摘する。

 重症患者の6割、軽症や中等症では9割で改善したという報告もあったのが、インフルエンザ治療薬「ファビピラビル」(商品名アビガン)だ。富士フイルム傘下の富士フイルム富山化学が開発した錠剤で、新型コロナウイルスのようなRNAウイルスの複製を阻み、増殖を抑えるという。

 特例承認の対象となるには海外での承認などの条件がある。アビガンは対象となっていないが、患者が希望し病院の倫理委員会で了承されれば観察研究として投与が認められる。俳優の石田純一(66)や、脚本家で俳優の宮藤官九郎(49)が投与を受けたことを明らかにしている。

 日本医師会は、高齢者や基礎疾患がある患者の重症化を防ぐため、アビガンを積極的に投与すべきだとの要望書を自民党に提出した。要望書では「リスクの高い人には早期の対応が極めて重要だ。副作用などに十分注意することを前提に活用してほしい」とした。

 政府は備蓄量を現在の3倍に増やして200万人分を確保する方針で、製薬各社は増産を急いでいる。海外にも無償提供する方針で、80カ国近くから要請があるという。

 副作用としては、胎児に奇形が出る恐れがあるとして、妊婦や妊娠の可能性がある女性は投与対象から外している。男性の場合、薬は精液まで移動するとされる。

 ほかにも膵(すい)炎治療薬「ナファモスタット」(商品名フサン)、ぜんそく治療に使われる「シクレソニド」(同オルベスコ)、ノーベル医学生理学賞受賞の大村智・北里大特別栄誉教授が共同開発した抗寄生虫薬「イベルメクチン」(同ストロメクトール)などの候補薬がある。

 有用性を示唆する研究発表も出ているが、西武学園医学技術専門学校東京校校長で医学博士の中原英臣氏は「まだ新型コロナウイルスの特効薬は開発されておらず、ほかの薬を使っているのが現状。過度な期待は禁物だ」とクギを刺す。

 前出の宮沢氏が「最終的には一番重要なこと」と語るのは、ワクチンの開発だが、「安全性が高く有効であることが前提になるため、ハードルは非常に高い。短期間での実用化を望むことは難しいのではないか」とみる。こちらも長期戦か。

5/8(金) 16:56配信
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