新型コロナウイルスの感染拡大が世界に与えた影響は甚大だ。この問題を正確にとらえるにはどうしたらいいのか。地域エコノミストの藻谷浩介さんによる「人口当たり死者数」の分析です。【毎日新聞経済プレミア】

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く。「この先日本は、世界はどうなってしまうのか」という底知れぬ不安に、神経をすり減らしている人が多いのではないか。だが感情に走るのは、事実を理解した後でいい。当連載では今後数回にわたり特別編「新型コロナの地政学」として、各国の状況を数字で確認し、背後にある国情の違いを考える。その作業の先に、今住む世界の構造が、もう少しクリアに見えてくることだろう。

 ◇各国比較に使えるデータとは

 2020年3月以降、世界各国は入国禁止措置や隔離を開始し、通常の海外旅行は不可能になってしまった。筆者も予定をすべてキャンセルして、おとなしく自宅にいる。そこで、現地に行けない代わりに世界各国の数字を分析してみると、国ごとに驚くほどの違いがあることがわかる。

 米国ジョンズ・ホプキンズ大学のサイトでは、彼らの調べによる世界各国の感染者数と死者数を、2020年1月22日以来、毎日示している。エクセルにコピーすれば分析は容易だ。

 国ごとにPCR検査(遺伝子検査)の数が激しく違う中で、「感染者数や死者数の国際比較に意味があるのか」と疑問の方も多いだろう。だが結論だけ言えば、感染者数の信頼性には疑問符が付くが、死者数は国ごとの相対比較には十分使える。字数の制約で詳細は省くが、検査率と感染者数は緩く相関するものの、死者数にはほぼ相関がない。つまり、検査率の高低にかかわらず、死者数は各国比較に使える。

 ◇感染拡大の実情を知る死者数比較

 ただし死者数の増加は、感染拡大から1カ月程度遅くなるので、直近の情勢がどちらに向かっているのかは読めない。また人口は国によってまったく違うので、死者数にしても感染者数にしても人口で割って、「100万人当たり何人」などという数字にしないと、国ごとの実態の違いはわからない。

 たとえばニュージーランドは、5月4日までに亡くなった人が21人とたいへん少ないが、人口も500万人弱なので、100万人当たりに換算すると4.3人。日本の同日の数字は100万人当たり4.2人なので、実は水準は同じだ。

 このような前提を理解した上で、グラフを見てほしい。欧米のいくつかの国と日本の、死者数の推移の比較だ。縦軸は、新型コロナウイルスに陽性反応の出た死者数の累計数(人口100万人当たり)。横軸は、最初の死者の出た日を初日として何日目か、を示す。このように起点を、最初の死者が出た日にそろえることで、各国での「感染拡大→死者増加ペース」の違いが、よりクリアに理解できる。

 ◇感染の広がり方は三つに分けられる

 見ての通り、最初の死者が出てから最も日数がたっている日本では、ここに示した欧米諸国に比べ、驚くほど死者数が増えていない。仮に日本での死者数がこの2倍あったとしても、その結論は同じだ。

 グラフの終点である20年5月4日現在の数字を示すと、日本は前述のように4.2人。これに対し諸々の対応を称賛されるドイツは85人と、日本の20倍の水準だ。米国は208人、英国427人、イタリア492人と、ケタが二つ上がる。ベルギーにいたっては682人。サンマリノを除いて世界最悪だ。

 これが本当に、同じ地球上で同じ時間に起きていることなのか。この違いの背景にある理由は何か。そして死者数の少ない日本で、なぜイタリア同様の医療崩壊が懸念されているのか。

 コロナ感染は、実はこの世界を三つに分けている。(1)非常に深刻な欧米、(2)秀逸な対応を見せた東アジア・東南アジアの先進・中進国、(3)これからが懸念される中東、南アジア、アフリカ、中南米、ロシア−−である。

5/18(月) 9:30配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200518-00000007-mai-bus_all
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