世界も日本のような「貯蓄過剰」社会に
こうした問題は、経済分析の世界では「貯蓄・投資バランス」という計数から議論されることが多い。

貯蓄・投資バランス……Investment/Savingの頭文字から「ISバランス」とも呼ばれる。一国における各経済部門(家計・企業・政府・海外)の最終的な資金過不足(貯蓄と投資の差額)を示すもので、国内3部門(家計・企業・政府)の貯蓄過不足の合計は、海外部門の貯蓄過不足(=経常収支)と一致するようになっている。

日本の「失われた20年」を振り返ると、後述するように、民間部門(家計・企業)の貯蓄過剰を、政府部門が借り入れる構図が続いてきた。リーマンショック後は、ユーロ圏でもこの兆候が強まっており、それに伴って物価の趨勢が衰え、金利も成長率も緩やかにしか動かなくなった。

アメリカでも、リーマンショック後は家計部門が貯蓄過剰に陥っている。それまで長らく貯蓄不足だったことを思えば大きな変化だ。

企業部門は何とか投資過剰を維持して実体経済を支えているものの、感染の第2波、第3波が不安視されるなかで、はたして積極的な消費・投資行動を取り続けることができるだろうか。

真っ当に考えれば、企業は「完全終息まで力を温存」という判断になるのではないか。

いずれにせよ、アメリカも民間部門(家計・企業)を総じてみればやはり貯蓄過剰であって、結局、もはや日・米・欧の三極ともその状態に陥っていることがわかる【図表1】。

マクロで見ると、貯蓄過剰が常態化する世界では金利は下がる。貯蓄がたくさんあるので、消費・投資のための資金需要は減り、それに応じて金利が低下するのは当然のことだ。

それを踏まえると、アメリカやイギリスでマイナス金利が導入されるとの観測が浮上していることに、まったく根拠がないわけではない。

これまで日本を中心に指摘されてきた「お金を使わない正義」が、こうして世界でまかり通るようになれば、必然的に世界の成長率は鈍化することになる。

「身代わり地蔵」としての中央銀行
当然だが、民間部門が貯蓄過剰のままでは経済は縮小するしかない。そうならないように、政府部門は民間部門の貯蓄を借り入れて、実体経済を支えるわけだ。

さまざまなメディアが報じているように、各国とも巨額の財政出動に積極姿勢を示しており、その額は全世界で8兆ドル(約864兆円)にものぼるとされている。

前節で示したISバランスの話に置き換えれば、世界の民間部門が手控えた消費・投資を、この8兆ドルでどれほど埋められるかが問われている局面ということになる。

それにしても、これほど大規模な財政出動を、民間部門の貯蓄からの借り入れだけでまかない切れるのか。

結論として、そのことはおそらく大きな問題にはならないだろう。というのも、仮にまかない切れなくて、それにより金利が上昇して実体経済が困るようなことがあったとしても、中央銀行がすぐさま国債の購入に踏み切るからだ。

全文はソース元で
5/20(水) 8:10配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200520-00000001-binsiderl-bus_all&;p=2