野原寛文さん
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 宮崎県警科学捜査研究所でDNA鑑定を担当する野原寛文・技術職員(29)が、男性のみが持つY染色体のDNA型を用い、その人に縁のある県内出身地を推定する全国でも例のないデータベース(DB)を作り、全国の科捜研職員が競う日本法科学技術学会の奨励賞を受賞した。宮崎県の“陸の孤島”ぶりを逆手に取った。今後、犯罪捜査や遺体の身元判明に資することが期待される。【塩月由香】

 ――どんなDB?

 事件の遺留物や遺体のDNAデータを検索にかけることで、県内にゆかりのある人か否か、ゆかりがあるのならどの地域なのかがある程度分かるというDBです。県内警察官らが提供してくれたDNAサンプルと、それぞれの出身地を照らし合わせた結果、DNA配列にある程度の地域傾向がみられるという結果を得て、作りました。

 ――研究の経緯は?

 私の母校の熊本大OBでもある清水健史・前科捜研副所長(3月で定年退職)が「同じ地域に住み続ける人が多い宮崎なら、父系DNAで地理的分布が分かるのでは」と、2008年度ごろに研究を始めたそうです。17年度に3カ年事業として県の予算が付き、18年度に私が加わりました。

 ――大変だったこと

 DNAのサンプル集めと解析作業ですね。清水さんたちが17年度に約600人分のDNAを集めていたので、さらに増やそうと、県内全13署を回って口腔(こうくう)内細胞を提供してくれる警察官らを募りました。1人分でも多く集めたくて、学会直前の19年9月まで粘って最終的に計1705人分が得られました。うち県出身者1285人分を約1カ月かけ解析しました。

 ――受賞の感想を

 成果が出てほっとしました。多くの人の協力のおかげです。この研究成果に、大学時代から続けてきた難治性肺疾患の解明研究の成果を加えた論文で、今年3月に熊本大大学院薬科学の博士号も取りました。

 ――今後の抱負を

 更にDNAサンプルを集めてDBの精度を高め、実用化につなげたいです。男性のみではありますが、犯人や身元の手がかりが全くない際、DBが捜査の進展に少しでも役立てば、被害者や遺族の思いに寄り添える。他県警も追随してくれて全国的なDBにつながればと願っています。

 ■人物略歴

野原寛文(のはら・ひろふみ)さん
 長崎市出身。熊本大大学院薬学教育部創薬・生命薬科学科(博士課程)に籍を置きつつ2018年度に科捜研技術職員として宮崎県警に採用。19年11月の第25回日本法科学技術学会、法生物部門(DNAや体液識別)で26演題のうち上位2題の奨励賞を受賞。20年3月に同研究などで博士号(薬科学)。5月に第1子の長男誕生でパパに。

毎日新聞 2020年5月25日
https://mainichi.jp/articles/20200525/ddl/k45/040/278000c?inb=ra