フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた木村花さんの急死をめぐり、生前の彼女に対する非難が問題視されている。
(中略)
 インターネットにおける非難・中傷は、日本だけでなくさまざまな国で問題となっている。

概してそれは多くの匿名者が、特定の人物を集団で追い込む状況だ。つまり「炎上」だ。
 そこで注視すべきは、加害者と被害者の関係はもちろんだが、TwitterやInstagramなどのSNSがバッシングを誘発しやすいことだ。
(中略)
■“危ない場所”になったTwitter
(中略
 日本においても、排外主義者による在日韓国・朝鮮人などに対する差別の問題は、2016年にヘイトスピーチ対策法が施行されるまでにいたった。
いまだにこの差別を大きく駆動しているのは、SNSにおける排外主義者の言動にある。

 ただ、こうしたネットでの非難や差別は、かならずしも芸能人や外国人だけが被害を受けているわけではない。
未成年者においてはいじめと関連し、一般の社会人であってもバッシングされるリスクは常にある。
しかもこうした状況は、日本や韓国だけでなく世界中のひとびとに共通するものとなった。

 なかでも、Twitterがとくに“危ない場所”になったのは、最近のことではない。
そこは、常にだれかを非難することにエネルギーを費やすユーザーが大勢待機する空間だ。

 おそらく、彼らの多くは他者への非難に強い自覚を持っていない。有名人、なかでも芸能人に対してはとくにそうだろう。
その多くは、テレビを観ながら自宅でひとりごとを発するかのようにツイートをしているにしかすぎない。

(中略
■無自覚な「公共性なき正義」
 その一方で、自覚的になされる非難もあるだろう。
みずからの良心や正義に従って、他者に対して強いことばを投げつけるケースはしばしば見受けられるからだ。
実際、『テラスハウス』での言動をめぐって、木村花さんに直接非難をぶつけていたひとたちのなかにも、そうしたタイプは少なくないかもしれない。

(中略
 その多くは、みずからの良心や正義に疑いを持つ様子はうかがえず、瑕疵のある相手を徹底的に糾弾することを善きこととしている。
加えて、インターネットでは限りなく自由な言説が許容されるべきであるとする、リバタリアン(自由至上主義者)的志向も見て取れる。

 しかし、そのほとんどはみずからの言動が近視眼的であることには気づいていない。
糾弾後に残る惨状のリスクへの想定が見られないからだ。その惨状によって生じやすくなった非難の矛先が、
こんどは自分や自分が愛するひとへ向けられることへの想像力は乏しい。これは端的に公共性に対する意識の欠如でしかない。

■ビリー・アイリッシュが描く孤独感

 このように惨状と化したSNSがひとびとのメンタルヘルスに与える影響は、この5年ほど日本に限らず世界的に注目されている。
とくにアメリカでは、さまざまな調査から若者の変化が確認されている。

心理学者のジーン・トゥウェンジ(サンディエゴ大学)は、それを率先して警告してきたひとりだ。
(中略
図にあるように、過去12ヵ月間にうつ病の症状を有した12〜17歳と18〜25歳の若者の割合は、2011年から5%も高まっている。
自殺率や自殺念慮も同様の右肩上がりとなっており、とくに女性はその傾向が強いとトゥウェンジは指摘する(※3)。そして、その要因をSNSとスマートフォンに見る。

こうしたアメリカの若者の変化は他にも多く指摘されているが(※5)、ポップカルチャーでもそうした兆候は多く見られる。
なかでも日本でも人気のNetflixドラマ『13の理由』(2017年〜現在)や、歌手のビリー・アイリッシュの人気はそれを示唆するものだろう。
ビリー・アイリッシュの場合、日本でもよく知られる’bad guy’はポップな曲調だが(歌詞は暗いが)、他は陰鬱な雰囲気の曲ばかりだ。
(中略)
 トゥウェンジはスマホとSNSによって若者に変化が生じたことを指摘したが、そこで注視するのは孤独感の高まりだ。
複数の調査をもとに彼女は、SNSの使用が孤独感を強めると分析する。ビリー・アイリッシュが描いているのは、まさにそうした若者の感性だ。
 孤独感は、心理学においては重要な概念だ。たとえばナチスを生んだ権威主義的パーソナリティには、その背景に強い孤独感があるとされる。

全文ソース
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20200525-00180157/