5/31(日) 8:54配信
毎日新聞

135年の歴史に幕を下ろす老舗漬物店「丸八 やたら漬」=山形市で、日高七海撮影

 長年、地域に愛されてきた老舗漬物店「丸八やたら漬」(山形市旅篭町)が31日、135年の歴史に幕を下ろす。国の有形文化財にも登録され、山形国際ドキュメンタリー映画祭の社交場や観光地としても親しまれてきた名所を関係者の証言や写真で振り返る。【日高七海】

 「断腸の思いだけど、山形の良さを知ってもらう拠点として役に立ったかな」。食文化の変化、新型コロナウイルスの影響……。時代の流れや予期せぬ荒波に巻き込まれ、やむなく幕引きを決断した最後の社長・新関芳則さん(66)は、その歴史に思いをはせる。

 新関さんによると、1885(明治18)年にみそやしょうゆの醸造業として創業。同時に地元の豊富な野菜を生かそうと「やたら漬」の販売も始め、1901年の山形駅の開業時は駅前で「山形名物」として売られていたという。64年ごろには、4代目の新関昌弘氏が、しゃりの上にミョウガの漬物を乗せてすしに見立てた料理を発案。同店名物の「漬物寿司(すし)」が誕生し、漬物の専門店となった。

 92年に土蔵を改造してオープンした「お食事処 香味庵(こうみあん)」は、翌93年のドキュメンタリー映画祭から「香味庵クラブ」と呼ばれる社交場に。「シナリオのない国際交流が毎晩行われていた」と、同映画祭の高橋卓也理事(64)は振り返る。

 かつて映画監督・崔洋一氏が映画祭を訪れ、香味庵で海外の映画監督らと語り合う姿が忘れられない。「香味庵が果たしてくれた役割は大きく、無くなることは想像もつかない。行政、映画人、民間の3者が集まって支えてきた映画祭の典型、その姿が香味庵で映画祭の象徴だった」

 一方で、食文化の多様化などで年々、漬物の売り上げは減少。新型コロナの感染拡大による花笠(はながさ)祭りの中止などで香味庵の予約計約4000人分がキャンセルになったことで廃業を決断。新関さんは「社員や納入先などに迷惑はかけられない」と苦しい胸の内を語る。

 最終営業の31日午後5時から従業員一同で閉店のあいさつを行う予定だ。「最後の姿を見ていただけたら」。新関さんらは、地域と共に歩んだ135年の歴史への感謝を込めて店に立つ。

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