新型コロナウイルスの影響による企業業績の悪化に伴い、東北で労働者の解雇や雇い止め、内定取り消しが急速に広がっている。4月までは自粛要請の直撃を受けた飲食業が多かったが、5月以降は業種を問わず雇用環境が厳しさを増している。(報道部・宮崎伸一)

 「新型コロナの影響で物流量が減少している。派遣契約は更新しない」

 派遣社員として宮城県内の倉庫・物流会社で働いていた30代女性は4月中旬、現場担当者から雇い止めを告げられた。契約が満期となった5月半ばに職場を去らざるを得なかった。

 派遣先は大手メーカーのグループ企業。今年1月から週5日、午前9時〜午後6時の勤務で月給約18万円を得ていた。契約時に「長期間働いてもらいたい」と言われ、「少しでも派遣先に貢献したい」と仕事に打ち込んできた。

 女性は以前、別の会社で事務職の正社員として勤務したが、体調を崩して退社。医師から事務職以外の仕事に就くようアドバイスされ、物流会社で仕分けや荷造りを担当していた。

 雇い止め後の求職活動では、健康上の条件を考慮しない職業紹介が続き、派遣会社を辞めた。「自己都合の退社」と主張する派遣会社とトラブルにもなった。

 女性は「立場が弱い非正規労働者にしわ寄せが来ている。やっと健康を維持しながら働けると思っていたのに将来が見通せない」と深いため息をつく。

 宮城労働局によると、新型コロナの影響で解雇・雇い止めを予定する企業は5月28日時点で9事業所89人だったが、今月9日現在、43事業所293人に急増している。3、4月は飲食業、5月以降は幅広い業種に広がっているという。

 労働局の担当者は「業種を問わず求人も減っており、今後の動向を注視している」と話す。

◎新入社員、内定取り消しも

 コロナ禍による内定取り消しも起きている。

 宮城県の20代男性は、4月に正社員として入社を予定していたIT関連会社から内定を取り消された。理由は「業務の減少」。一度も出勤することなく契約終了を言い渡された。

 会社はパソコンやシステムの設定を請け負っていた。男性が仙台支社勤務の内定を得たのは2月下旬。だが3月中旬、会社から「新型コロナの影響で支社の仕事が減っている。入社日を延期してほしい」と電話で告げられた。

 当初の入社予定日だった4月1日が迫り、男性は3月下旬に休業補償について問い合わせた。間もなく担当者から「4月分の給料は払うが内定は取り消す」と通告された。

 男性は3年前に父親を事故で亡くし、祖母の介護のため広告代理店を退職した。昨年秋、祖母の特別養護老人ホームへの入居が決まり「再び正社員として働こう」と前向きに考えていたところだった。

 IT関連会社の社長は自身のブログに「今後も新規採用を続ける」などと書き込み、他地区に配属された同期の新入社員は現在、研修中だという。

 男性は「倒産の危機に直面して解雇されるなら納得できるが、私の場合は新型コロナを理由にした内定取り消しだ」と憤る。個人加盟の労働組合「仙台けやきユニオン」に加入して撤回を求めている。

 ユニオンの森進生代表は「新型コロナを方便にし、雇用調整をする企業が増えている。泣き寝入りをせず、労組や弁護士に相談してほしい」と呼び掛ける。

河北新報 2020年06月15日 月曜日
https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/202006/20200615_73019.html