「学校や幼稚園での皆勤賞って必要でしょうか」。広島県内の認定こども園に勤める40代男性から、こんな声が編集局に届いた。新型コロナウイルス禍の中、子どもが体調不良を押して登校・登園すれば感染拡大の恐れもある。「休むことは悪い、というメッセージを与えてしまう」と男性は懸念する。一方で「子どもの頑張りを認めてあげたい」との意見も根強い。皆勤賞の是非をどう捉えたらいいのだろう。

 この男性が勤務する園では、毎年3月の卒園式で皆勤の表彰をしている。全ての園児や保護者を前に、一日も休まず通った園児の名前が呼ばれ、園長がたたえる言葉を贈る。少なくとも15年前から続いているという。男性は「体調が悪くても賞を目当てに登園する子どもや、それを勧める保護者がいる」と明かした。

 皆勤の表彰をするかどうかは各施設の判断だ。文部科学省は「国の指針は存在しない」と説明する。広島県教委や広島市教委は、実施状況を巡る調査をしていないという。

 広島市内の全19公立幼稚園や一部の認定こども園、公私立の小中学校に尋ねてみた。皆勤を表彰している公立幼稚園はなかったが、その他の園や学校の対応はまちまちだった。

 表彰している園や学校は、子どもと保護者の「頑張り」を見える形で評価したいとの思いが強い。ある市立中の校長は「一日も休まないのは生徒の努力の一つ。自己肯定感を伸ばせる」。私立の中高一貫校の教頭も「生徒が自身の健康を喜び、生活を支える家族に感謝するきっかけになる」と意義を強調する。

 一方、否定派の多くは子どもの体調管理の難しさを指摘する。幼稚園教諭として40年のキャリアがある園長は「特に幼い子は体調を崩しやすい。家庭環境による健康管理にも差がある」。別の園長は「休んではいけないという無用なストレスを子どもに与えるべきではない」と語った。

 ただ、皆勤賞を廃止する動きは今後広がるかもしれない。ある市立小は今春、長年続けていた表彰をやめた。教頭は「保護者に賛否はあったが、不登校などさまざまな事情の児童がいる」と説明する。学校に行きづらい子どもへの配慮に学校現場の働き方改革の流れが重なり、教員の間で廃止論がくすぶっていた。そこにコロナ禍も加わり、廃止に踏み切った。

 「皆勤賞の是非は何とも言えないが、少なくとも健康であることと、学校を休まないことの価値は全く別物だ」。福山市立大教育学部の小野方資(まさよし)准教授(教育制度)は指摘する。「休むべき時とはどんな時か。子どもと保護者に対し、その理解を進める必要がある」

 不登校を認め学校以外の学びを支援する2017年の教育機会確保法施行で、「無理に学校に行かなくてもいい」とのメッセージが出された。学校や保育の現場でのコロナ対策は今後も不可欠だ。石川教育研究所(埼玉県)代表で教育評論家の石川幸夫さん(68)は「時代の流れとともに教育の価値観は変わる。子どもの評価の在り方について、学校現場は慣習にとらわれず、不断の議論を」と強調する。(木原由維)

中國新聞 2020/10/4
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