5日午前1時ごろ、東京・上野公園(台東区)の歩道で、ホームレスの男性(73)の荷物が燃える火事があった。周囲に火の気はなく、警視庁上野署は何者かが放火した可能性があるとみて調べている。路上に荷物を放置するのは道路法(道路占用)に触れるとはいえ、放火という危険で心ない行為に、男性やホームレスを支援する関係者は心を痛めている。(天田優里、奥村圭吾)

◆「踏んだり蹴ったりだ」

 黒焦げになったブルーシートや段ボール、下着…。歩道上に無造作に広がった荷物を一つ一つ手に取りながら、男性は「コロナで日雇いの仕事も減って全然回ってこないし、踏んだり蹴ったりだ」と悲しそうな表情を浮かべた。

 周囲には東京国立博物館や国立科学博物館、美術館など文化施設も多い。署や東京消防庁によると、通行人が火事に気付いて119番し、駆け付けた消防隊員が約20分後に消し止めた。約2平方メートルが燃えたが、男性は出火当時は別の場所にいて、5日朝に荷物を取りに訪れて被害を知った。

 男性は2年前から路上生活を送る。昨年末から上野公園付近で寝泊まりするようになり、生活に必要な物を台車に載せて寝場所近くの歩道上に置いていた。

 現場の歩道を管理する都第六建設事務所によると、路上に放置された荷物を巡り、通行人から苦情が寄せられることは少なくない。火事を受け、事務所は5日朝、現場周辺に放置されている荷物に撤去を求める警告札を貼った。

◆過去には段ボールハウスに放火も

 台東区保護課によると、上野公園では5年ほど前にも、ホームレスの男性の「段ボールハウス」がたばこの吸い殻で放火され、男性がやけどする事件があったという。

 同課は週1回ほど公園内のホームレスに声を掛け、生活保護の受給や生活困窮者自立支援法でのサービスを紹介している。路上から、安心できる場所での生活に移ってもらい、段ボールハウスや荷物を減らすことにつなげている。

◆「荷物を奪うことは彼の全てを奪うのと同じだ」

 ホームレス支援に取り組む一般社団法人「あじいる」(荒川区)の荒川茂子さん(65)は「荷物を奪うことは彼の全てを奪うのと同じだ」とおもんぱかる。ホームレスが暴行を受けるなどの被害に遭う事件は全国各地で繰り返されており、「ホームレスは汚いなどといった、社会の中の差別意識が背景にあるのではないか」と話している。

2020年11月6日 06時00分 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/66618
https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/9/2/c/c/92ccbd999364c7e2a9c7bcee58fb0f29_1.jpg