公開中の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」。コロナ下でも記録的ヒットに=姫路市(撮影・山本 晃)
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 さまざまなコラボ商品が売り出され、公開映画も好調な漫画「鬼滅の刃」。作品の特徴の一つに、竈門(かまど)や栗花落(つゆり)、胡蝶(こちょう)、不死川(しなずがわ)など、登場人物の個性的な名字が挙げられるが、その一部は、少ないながらも実在している。期せずして脚光を浴びた名字の持ち主は、空前の鬼滅ブームをどう見ているのだろうか。

 「自分の名字が人気作に使われるなんて、思ってもいなくて。取りあえず、悪役じゃなくてよかったなと」。神戸市北区の主婦、産屋敷(うぶやしき)美江子さん(61)が笑う。

 鬼滅の刃は、大正時代を舞台に、主人公竈門炭治郎が、鬼になった妹を人間に戻すために戦いを重ねるストーリー。その中で主人公らが加わる「鬼殺隊」の当主に「産屋敷」姓が採用されている。

 美江子さんによると、出産のための「産屋」があったとされる三重県紀宝町の地名が由来。

 昨年末、何気なくインターネットで名字を検索したところ、鬼滅の刃の関連項目がずらりと出てきて気付いたという。

 早速漫画を買いそろえ、長女真美さん(34)とともに世界観のとりこになった。病院などで名前を呼ばれて視線を集めることも増えたといい、「知名度がアップしたようで、誇らしい感じがしています」と話す。

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 作品には、神戸市北区山田町が発祥とされる難読名字の「栗花落(つゆり)」も出てくる。竈門炭治郎の同期にあたる鬼殺隊の女剣士、栗花落カナヲだ。

 同市灘区の栗花落敏彦さん(73)は「『らっかせいさん』と呼ばれるなど、初見できちんと読まれたことはまずありませんが、奈良時代までさかのぼる名前なんですよ」と解説する。

 敏彦さんが知る伝承の一つによれば、淳仁天皇に仕えていた地元の役人、山田左衛門尉真勝が白滝姫に恋をし、歌比べに勝って結ばれた。その時期が、栗の花が落ちる梅雨入りの頃だったことから天皇が新しい名字として与えたという。山田町には、夫妻にちなんだエピソードが残る井戸「栗花落(つゆ)の井」が現存し、姓の由来とする説もある。

 敏彦さんによると、同じ「栗花落」姓でも、本家筋は「つゆ」と読み、敏彦さんら分家筋は「つゆり」と読むそうだ。

 「鬼滅の刃にどうこう言うつもりはありませんが、『漫画に出てくる名前』として認識されるのはちょっと…。1300年の歴史をへて、今に伝わる由緒をきちんと分かってほしい」

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 主人公と同じ「竈門(かまど)」姓の女性(77)も、播磨地域にいる。

 今春、テレビ局からの問い合わせをきっかけに作品を知ったが、関心は高まらなかったという。

 内容を確認しようと本屋に立ち寄ってみたものの、帯が付いていて立ち読みできず、「買うほどではない」と断念。アニメの再放送を知ってテレビを付けたが、眠くなって途中で見るのをやめた。

 「この年齢になって、今更名前が注目されてもね。そっとしておいてほしいというのが本音です」と苦笑する。

 ユニークな登場人物の名字について、単行本を出版する集英社広報部は「架空の世界を舞台とした漫画では、身近な名前を使わないのが一般的」と説明。個別の名字を選んだ経緯については「創作の秘密に関わる事項は回答していない」とした。

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 原作のアニメ化によって火が付いた「鬼滅の刃」の人気は、10月16日に公開された映画でさらに広がっている。興行収入は史上最速で伸び続け、企業とのコラボ商品も食料品や切手、宿泊プランなど、とどまるところを知らない。

 「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を配給する東宝とアニプレックスによると、公開1カ月間の興行収入は約233億4千万円で、国内歴代5位にランクイン。100億円、200億円の突破はいずれも史上最速で、さらなる伸びが期待されている。(小川 晶)

11/22(日) 11:00配信
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