「そちらで処方された薬をのんでいた人が、意識消失で救急搬送されました」―。11月27日、岐阜県高山市の久保賢介医師(63)の元に、救急病院から連絡があった。59歳の男性が車を運転中に意識を失い、溝に脱輪したという。“異変”の始まりだった。

××

 久保医師は、内科とアトピーの治療を専門とする有床診療所の院長。59歳男性の救急搬送以後、入院患者4人についても普段と様子が違っていることに気が付いた。朝食を食べたら夜まで寝ていたり、起こすと記憶を一部失っていたりすることがあった。

 他の外来患者に関しても、12月2日の朝には30代女性が意識がもうろうとした状態になり寝てしまった。32歳の男性は配送の仕事中にトンネル内で意識がなくなり、センターラインのポールに衝突した。本人は当時の記憶がなく、事故後も、もうろうとしたまま仕事を続けたという。

 意識障害があった患者7人には共通点があった。久保医師は「全てイトラコナゾールが原因だと確信した」と振り返る。

××

 診療所では、アトピー性皮膚炎に多いマラセチア毛包炎の治療に、数年前から経口抗真菌剤イトラコナゾール錠を用いていた。服用はどの患者も1日1回2錠。久保医師は「副作用が少なく、安心して使っていた」と話す。

 すぐに販売元の担当者を呼び、書面で患者の症状を伝え販売を中止するよう申し入れた。製造したのは、ジェネリック医薬品の中堅メーカー、小林化工(本社福井県あわら市)。久保医師の訴えが、多数の健康被害が発覚する端緒となった。

××

 小林化工によると、同錠剤による副作用の報告は、12月に入ってから1日に2人、2日に1人だった。しかし「医薬品の副作用の症例報告は毎日入っており、まだ(健康被害という)認識はなかった」と幹部は振り返る。

 3日になって岐阜の久保医師から7人、他府県から2人の計9人の副作用の報告があり、事の重大さにようやく気が付いた。

 同社は4日、9月28日〜12月3日に出荷されたイトラコナゾール錠50「MEEK」に、睡眠導入剤の成分「リルマザホン塩酸塩水和物」が混入し、服用した2歳女児を含む患者12人に健康被害があったと発表した。

 混入量は4錠服用した場合、最大投与量の10倍に及ぶ。同錠剤が重篤な健康被害または死亡の原因になり得る「クラス1」に当たるとして、該当するロットの自主回収を始めた。

 意識消失や記憶喪失、ふらつきなど健康被害の報告はその後も増加し続けた。処方された患者は31都道府県364人に及んだ。

 10日には、服用した70代女性が首都圏の病院で死亡する最悪の事態に。小林広幸社長は12日、報道陣の取材に応じ「重大な過失を犯し、責任を痛感している。会社全体で償っていきたい」と頭を下げた。

⇒検証小林化工2_信じられないと他社
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1227187

 小林化工が製造した薬剤に睡眠導入剤成分が混入し、全国で健康被害が相次いだ。あってはならない誤混入はなぜ起こったのか。経緯を追い、検証した。

⇒D刊に検証連載第3回
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1225233

【イトラコナゾール錠】爪水虫やカンジダ症などの治療に用いる抗真菌剤で、ジェネリック医薬品(後発薬)。小林化工は2004年7月から製造、販売している。有効成分の量によりイトラコナゾール錠50、100、200の3品目がある。睡眠導入剤成分が混入した同50のロット約10万錠は、製薬会社「Meiji Seika ファルマ」が販売していた。

福井新聞 2020年12月17日
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1226488

※関連スレ
【医療】ジェネリック服用で死亡事故「医師はこんな事故が起こると不安に思っていた」★4
http://itest.5ch.net/asahi/test/read.cgi/newsplus/1607928980