【旭川】「こんな最期はあまりにひどい」。道北に住む女性は、長年連れ添った70代の夫の最期に立ち会えず、遺体とも対面できなかった。新型コロナウイルスのせいだ。夫は国内最大のクラスター(感染者集団)が発生している旭川厚生病院に入院して感染し、生きて病院を出ることはかなわなかった。数週間ぶりに火葬場で会えた夫は白い骨になっていた。

 2年前に胃がんが見つかった夫は、腹水がたまるなどの症状があったため、11月中旬に入院した。5日後、病院から予期せぬ連絡が入り、言葉を失った。「新型コロナの感染が確認されたので隔離します」。夫はその日、病院が発表した院内感染患者19人のうちの1人だった。その後、担当医から「容体は安定した」と知らせがあり、妻は「そのうち戻ってくる」と思っていた。

 数週間がたった日の朝、医師から急変を知らせる電話があった。感染防止で面会できないまま2時間後、夫が息を引き取ったことを再び電話で伝えられた。「最期に夫に会いたい」と頼んだが、断られ、4時間後に火葬場に運ぶとの説明を受けた。

 慌ててひつぎに入れる品を探した。半世紀以上、高校球児を指導した夫のため、野球のボールを選んだ。火葬でウイルスは死滅したと言われ、夫の骨を長男夫婦と拾った。疲れ切って「何かを考える体力も気力もなかった」と振り返る。

 告別式には、野球の教え子や関係者が100人以上集まった。腎臓病のため欠席した高校野球部の元部長から手紙が届き、弔辞として読まれた。文面は、夫の熱心な野球指導を振り返り「私も長くお待たせせずにいくと思います。酒でも飲みながら野球談議を聞かせて」と、締めくくられていた。

 「夫がこんなに慕われていた」と心は少し休まったものの、長年の伴侶を失った喪失感はぬぐえず、「生きる目標を見失った」と話す。「だれを恨むわけではないが、どうしてこうなったのか」と、涙を拭う日が続く。
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