九州新幹線鹿児島ルートは12日、全線開業から10年を迎えた。博多―鹿児島中央間の年間輸送人員は全線開業前と比べ3・2倍の1394万人に膨らみ、直通運転で結ばれた関西・中国地方から熊本や鹿児島を訪れる観光客も大幅に増えた。一方で全12駅のうち5駅で当初の利用予測を下回り、新幹線効果の明暗が浮き彫りになった10年でもあった。

 「熊本にようこそ!」。3月6日、熊本市中央区の観光物産館「くまモンスクエア」で、熊本県の人気キャラクター「くまモン」が観光客ら30人をコミカルな動きで迎えた。九州新幹線の全線開業に合わせ、熊本をPRするため誕生したくまモン。常設ステージを備えたくまモンスクエアには年間50万人以上が来場する。関西や中国地方からの観光客も多く、島根県浜田市の大学3年生、槙野優健(ゆうけん)さん(21)は会場で「広島から新幹線で1時間40分。とても便利」と笑顔を見せた。

 2004年に新八代―鹿児島中央間で先行開業した九州新幹線が全線でつながったのは11年3月12日。前日に東日本大震災が発生したため、開業イベントもない静かな船出となったが、その後の歩みは比較的堅調だった。10年度に440万人だった博多―鹿児島中央間の輸送人員は熊本地震があった16年度を除けばほぼ右肩上がりで推移し、19年度には1394万人に。とりわけ大きな恩恵を受けたのが熊本や鹿児島だ。


 JR九州によると、新幹線の熊本駅の乗車人数は1日当たり1万5441人(19年度)で、全線開業前の想定(1万3100人)より17・9%多かった。鹿児島中央駅も想定の1万1650人に対し、74・0%多い2万271人。九州経済調査協会(福岡市)などが国土交通省のデータを基に分析したところ、JRと航空を合わせた熊本―大阪間の輸送人員は10年度の74万人から18年度は100万人に、鹿児島―大阪間も122万人から150万人にそれぞれ増えている。

 「新幹線の開業効果は期待以上」。全線開業に合わせ熊本城近くにオープンした観光施設「桜の馬場 城彩苑(じょうさいえん)」を運営する「桜の馬場リテール」の米納(よのう)弘康常務(56)は語る。新型コロナウイルスの感染拡大前までは関西などからの観光客でにぎわい、19年には123万人が訪れた。「熊本地震から急速に回復できたのは県外客のおかげだった」

利用者伸びない駅も 想定の甘さ否めず
 九州新幹線の全線開業で利用者が増えた熊本駅に4月23日、地上12階、延べ床面積約11万平方メートルの巨大な駅ビルがオープンする。3月5日には一体開発された近くのビルに入る大手家電量販店が先行開業した。行列に並んだ熊本市の男性(58)は「駅利用者には便利。近隣の自治体からも買い物に来る人が増えるだろう」と歓迎する。

 2011年3月の全線開業前、沿線の自治体が懸念したのが大都市の福岡に人が流れる「ストロー現象」だった。九州経済調査協会などが1月、福岡、熊本、鹿児島3県の約1000人を対象に全線開業後、福岡市への買い物頻度が増えたかアンケートしたところ、熊本県からは22%、鹿児島県からは14・7%増えていた。一方で熊本市や鹿児島市でも商業施設の充実により買い物客が増えており、一定の「ダム効果」があったと分析した。

 ただし、新幹線駅ができたすべての街が成長しているわけではない。JR九州によると、九州新幹線の全12駅のうち、1日当たりの乗車人数(19年度)が全線開業前の想定を上回ったのは7駅。新鳥栖▽新大牟田▽新玉名▽新水俣▽出水――の5駅は想定に届かず、新鳥栖以外の4駅は想定を30〜50%近くも下回った。(以下略)

毎日新聞 3/12 19:36
https://mainichi.jp/articles/20210312/k00/00m/020/216000c