「発症数、病床使用率とか客観的な数字を参考にしながら、専門家の意見を聞く中で判断したい。もうしばらく時間をかけたい」

 21日まで延長された新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言は果たして解除されるのか。16日、菅義偉首相は東京都内で記者団の質問にこう答えていたが、「どうしたらいいのか分からない」のが本音ではないのか。というのも、菅首相が「意見を聞く」とした「専門家」がすでに“お手上げ状態”を認めているからだ。

 15日の参院予算委。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は、首都圏で感染の下げ止まり傾向が続いている状況について、「見えない感染源があるのではないかというのが我々の判断」「そのことを放置したままにただ延長、また解除をしても本質的な解決にならない」などと説明していたからだ。

「見えない感染源がある」のは昨年春から分かっていたこと。だからこそ、昨年の早い時期から民間の医療従事者らは「PCR検査の拡大による無症状感染者のあぶり出しと徹底隔離」の必要性を訴えていたのだ。

 ところが、尾身会長はそういった声を無視し、「感染拡大を防ぐだけが目的なら、中国と同じことをやればよい。しかしもっと合理的な21世紀型の対策があるはずだ」(昨年2月の日経新聞座談会)などと言って、政府として具体的な防止策を講じてこなかったのだ。

■今さら「重要なことはしっかりとした現状の把握だ」と

 尾身会長は同予算委で、「重要なことはしっかりとした現状の把握だ」と言って検査体制の強化などを主張していたが、この発言もまた、「今さら感」を覚えざるを得ない。尾身会長は昨年10月に横浜市で開催されたバイオ産業のイベントに出席した際の基調講演で、無症状感染者のPCR検査についてこう言っていたからだ。

「経済活動に参加できるよう、安心のために(PCR)検査を受けるというのは理解できる。(しかし)感染拡大の防止には役立たない」

「感染拡大の防止に役立たない」とハッキリ言っていたのに、今は検査強化が必要だなんて、あまりにいい加減過ぎるだろう。

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏がこう言う。

「政府分科会や厚労省がPCR検査を拡大しなかったのは、自分たちの権益を守るため。改正前の感染症法では、民間の医療機関や検査会社は、厚労省や国立感染症研究所、保健所の指示がなければ検査できず、濃厚接触者以外の医療従事者やエッセンシャルワーカー、社会的弱者を無症状でも検査できる建て付けになっていませんでした。そこで法改正を訴える声が強くなったわけですが、改正法で民間機関や検査会社でも無症状感染者を検査できるようになってしまうと、自分たちが自由に差配できなくなる。当然、カネの流れも把握できなくなるわけです。だから、検査拡大に必死で抵抗したわけですが、改正法でもその部分は変わらなかったため、今度は『検査拡大が必要』などと言い始めているのです」

 権益維持に執着して必要な対策を講じず、今になって「見えない感染源」などと言いだす。専門家がこの調子では、日本の新型コロナ対策が進まないのも当然だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/34bfafdd7b17ac58c0a39a26b00f4bd304c8874d
3/16(火) 16:25配信