近年、日本がIT後進国になったという言葉をよく耳にするが、昔は先進国だったのに、急に後進国になってしまったのではない。日本のIT化は初期段階から躓いており、それが今の惨状をもたらしていると考えるべきだ。この不都合な真実をしっかりと受け止め、現実を見据えた対策を打たなければ、いくら開発強化を叫んだところで絵に描いた餅となってしまう。(加谷 珪一:経済評論家)

日本は90年代以降、IT投資額をまったく増やしていない

 コンピュータに関する技術そのものは70年代から発達を続けてきたが、社会全体にITが普及し、ビジネスに質的な変化が生じ始めたのは90年代のことである。パソコンの急激な普及と、それに続くインターネットの拡大が原動力となったことは説明するまでもない。

 日本は80年代までは半導体やコンピュータ機器の製造で相応の成果を出しており、トップランナーの1人であった。だが90年代を境に日本のIT産業は競争力を失い、社会全体のIT化も先進諸外国と比較して大きく出遅れている。

 80年代から90年代前半にかけて、日本におけるIT投資の金額(ソフトウェアとハードウェアの総額)は、米国やドイツ、フランスなど先進諸外国と同じペースで増加していた。ところが95年以降、その流れが大きく変化し、日本だけがIT投資を増やさず、25年以上にわたって横ばいで推移するという異常事態が続いている。その間、米国はIT投資額を3.3倍に、フランスは3.6倍に、ドイツは1.6倍に拡大させた。数字だけを見ると、日本はITに関してまったく興味を失ったようにも見える。

 もっとも、日本はIT投資だけを意図的に減らしたわけではない。90年代以降、日本経済のゼロ成長が続く一方、諸外国は急ピッチで経済を拡大させた。日本だけが経済成長できていない状況であり、前年を踏襲したIT投資を続ければ、相対的に大幅なマイナスになるのは当然の結果といってよいだろう。

 日本は90年代以降、景気低迷が続いており、政府は大型の財政出動を相次いで実施したがほとんど効果がなかった。本来であれば、民間企業が次世代の成長エンジンであるITに対して積極投資する必要があり、実際、他国はそのように動いたが日本企業は投資を行わなかった。その結果、企業の業績も伸びず、現状に至っている。

 つまり日本企業は、IT化という時代の変化に対して、まったくといってよいほど対応せず、前年度の予算を踏襲していただけに過ぎない。

 日本企業が何も考えずにIT投資を行っていたことは、投資を行っているセクターの動きを見れば一目瞭然である。

 米国は90年代以降、IT投資を積極的に行うセクターはめまぐるしく変化している。当初は製造業によるIT投資が多かったが、その後、製造業の比率は低下し、サービス業の投資が増えていった。

 加えてIT企業による投資も2000年以降、顕著に増えている。これはアウトソーシングやクラウド化が進み、一般事業会社がシステムを保有せず、IT事業者が保有するシステムをサービスとして使う動きが加速したことを物語っている。サービス業によるIT投資の増加は、アマゾンやウォルマートといった小売店や外食産業が次々とIT化を進めた結果といってよいだろう。

 ところが日本における分野別のIT投資の動きを見ると、90年代から現在に至るまで業種間のシェアにまったくといってよいほど変化がない。製造業もサービス業も同じ水準の投資を続けているだけであり、IT企業の投資シェアが拡大していないことから、クラウド化も進んでいないことをうかがわせる。何も考えずに前年踏襲型のIT投資を続けていることは明らかであり、これではITが経済成長のエンジンになるわけがない。

 従来の技術と異なり、ITというのは組織のカルチャーと密接に関係している。IT化を進めると、業務が効率化されるので、組織はフラットな方向に変わっていく。逆に言うと、フラット化に抵抗感を持つ組織の場合、IT導入そのものが忌避される傾向が強い。

 日本ではせっかくITを導入しても、従来の業務プロセスを改善せず、ムダが多い状態でIT化されるケースが後を絶たず、IT化による生産性向上を実現できていない。これではIT化した意味はなく、経済全体で見た場合、その投資は成長に寄与していない。

 変化を嫌う組織や社会の風潮がIT化を妨げているという話だが、同じメカニズムは当初から作用しており、これが日本のIT化を遅らせた可能性が高い。

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https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66791