政府が新型コロナ対策の緊急事態宣言を首都圏などで月末まで延長する方針を固める一方、政府の分科会は解除に向けた新基準を示した。新規感染者数は減少傾向にあるものの、分科会は「解除してもリバウンド(再拡大)があり得る」と警戒する。医療提供体制の逼迫ひっぱくは続いており、月末で宣言を解除できるか見通せない。(池田悌一)
◆新基準の背景に医療現場の負担増
 「これからもリバウンドは十分に考えられる。政府は緊急事態宣言を解除する際は慎重にやってほしい」。分科会の尾身茂会長は8日の会合後の記者会見で、解除後の感染再拡大への危機感をあらわにした。
 この日、分科会が示した新基準は、医療提供体制の逼迫度をより重視したものだ。新規感染者数は、下降傾向が2週間ほど続けば解除できるよう緩めた。新基準の背景には、デルタ株の猛威により、医療現場に大きな負担がのしかかっていることがある。
 東京都で8日に確認された新たな感染者は1834人。17日連続で前の週の同じ曜日を下回ったが、同日時点の病床使用率は63%で新基準の「50%未満」を大きく上回る。
 尾身氏は「私たちの主たる目的は、重症者数を減らして亡くなる方を減らすことだ」と強調した。
◆解除でもすぐに日常生活は取り戻せず
 宣言を解除できたとしても、ただちに日常生活を取り戻せるわけではない。
 分科会は前回会合の3日、11月ごろには希望者の大半がワクチン接種を終える見通しを示し、接種証明や陰性証明の活用で大人数での会食や旅行も可能にする新たな仕組み「ワクチン・検査パッケージ」を提言した。
 仕組みの根拠の一つとしたのが、京都大の古瀬祐気・特定准教授(感染症学)による試算だ。ワクチン接種率を、60代以上85%、40〜50代70%、20〜30代60%と想定。デルタ株への感染予防効果を70%、重症化や死亡を防ぐ効果を90%と見積もり、人と人の接触機会を50〜60%減らせば、年間の死亡者数は季節性インフルエンザ並みの1万人程度になると試算した。
 ただし、前提として、マスク着用やオンライン会議、テレワークの必要性を分科会は強調する。接触機会の抑制ができなければ、再び緊急事態宣言が必要になると警告した。
◆「集団免疫の獲得は当分無理だ」
 ワクチンだけで新型コロナの流行を抑え込むことは難しい。人口の一定程度が免疫を持つことで免疫のない人も感染から守る「集団免疫」は、専門家らの間では当初、6〜7割程度の接種率で獲得できると考えられていた。
 だが、デルタ株の流行により状況は悪化。脇田隆字・国立感染症研究所長は先月の段階で、「8〜9割でも大丈夫かというと、分からない」としていた。
 分科会は3日の会合で、ワクチン接種後に感染する「ブレークスルー感染」が起きていることに触れ、接種を終えた人も感染を広げる可能性があると懸念。免疫が徐々に減弱することも踏まえ、追加接種の議論を進めるよう求めた。
 尾身氏は記者会見で、硬い表情でこう語った。「社会全体が守られるという意味での集団免疫の獲得は当分無理だ」

東京新聞 2021年9月9日 06時00分
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